座ったまもりの横に蛭魔が手をつき、そうすると目線の高さが同じになり、どきっとした。
 テーブルの端から放り出された足がぷらぷらして、不安定。
 ふと尻の下にさっきはなかったタオルが敷かれていると気が付いた。
 大きなバスタオル。蛭魔の私物だ。バックをごそごそやっていたのはこれかとまもりは思った。
 でもなんで?帰るのではなかったか。この状況はなんだろう。テーブルは座るためのものではない。
 蛭魔は左手に重心をかけ、空いた右手でまもりの頬を包み込むように触れる。
 長い指が、耳をかする。
 キスによって呼び覚まされた甘い兆しに再び着火しそうな疼きを覚え、まもりは思わず洩れそうになった声を寸でで飲み下した。
 くんと上下したまもりの喉に蛭魔が近づく。
 「や、え…、ちょっと…。何?……」
 こそばゆさと、そこから微弱にしかし確かに生じる快感にまもりは肩をすくめた。
 「あ、あの、あの、ヒル魔くん?」
 まもりの髪の芳香を嗅ぐように鼻先を埋め、舌を伸ばして首筋から耳の後ろを舐め上げた。
 「あン」
 まともに出てしまった自分の甘ったるい声にまもりはカッと羞恥が走る。
 蛭魔の手が耳から首、肩を滑ってまもりの身体をまさぐる。
 「ちょ、ちょっと!ヒル魔ッ…!」
 長い指が制服のリボンにかかって、引っ張られた。
 「!! きゃー!ちょっとヒル魔くんっっ!!」
 本格的に叫ばれた色気のない声に、やっと蛭魔は顔を上げた。
 「なんだよ?」不機嫌そうな表情。
 この状況、さすがに、わかる。
 それでもまもりは言った。
 「な、なにするのよ?!」
 解かれたリボンの胸元を両手でかばう。
 それで蛭魔は、算数の問題を解けずに頭を抱える小学生を教える大学生というか、
 買ったばかりの新機種の携帯を一度も使わないまま水溜りに落した人間を目撃したというか、
 つまり心底ああこいつどうしようもねえなぁというような、
 「なにって」馬鹿にした目でまもりを見た。
 「ナニだろが」
 蛭魔の目つきとその言いぶりにまもりの顔は一気に赤くなる。
 「な、ナ、なに、をなにを……!」
 (――ナニって何を言ってるのよ!わかってるわよそんな言い方ないでしょう!だいたいなによその馬鹿にした目は!)と、言いたい。
 蛭魔が次になんの展開に持っていくのか、まもりだって察する。
 察するが、素直に受容するかとなれば話は別だ。
 男女関係には性行為があると当然まもりもわかっている。
 優等生だ風紀委員だと周囲に言われるほどまもりにカマトトぶるつもりもない。
 しかし、今までまもりの日常に、男女間の性が組み込まれる機会がなかったのだ。
 生まれて17年目でファーストキスの経験はついさっきだ。
 とりあえず展開の早さに軽くパニックがおきても許して欲しい。
 まもりは口を尖らせプイっと横を向いた。
 蛭魔はテーブルから手を離して、いったん距離をおいた。
 「いやなのか?」
 蛭魔は深い溜め息を吐いてから、言った。
 いやか、と問われて、まもりは嫌ではないとはっきり思った。
 蛭魔の唇や手の感触に、この曖昧な快感の更に先を感じてみたいと思ったのも事実だし、
 帰るのかとロッカーに向かう蛭魔の背中に置いてきぼりを食らったような物寂しさを覚えて、離れた身体とまだまだ一緒に抱き合っていたいと願ったのも事実だ。
 それとも恐怖を感じているだろうか?まもりは自問してみた。
 しかし、そうでもないと思った。
 まったくないと言えば未知の世界に対して嘘になるけれど、
 それでも、自分にそんな場面が廻ってきたらきっと逃げ出したくなってしまうんじゃないかしらと空想していたほどの混乱は覚えない。
 ではこの感じる垣根はなんだろうか。
 「…ヒル魔くんは……」
 まもりは、上目遣いでおずおずと蛭魔を見る。
 「恥ずかしく、ないの…?」
 それで蛭魔はまたも馬鹿じゃねぇかこいつと言わんばかりの顔をした。
 わかってるそういう顔するだろうって思ったわよ!
 恥らう蛭魔妖一なんてそんなの悪い冗談だ最大級のそれこそ悪夢だけどこっちは恥ずかしいのよ!!
 そうだ、恥ずかしい。すごく恥ずかしいんだ。
 肌をさらけ出すとか、快楽をむさぼるとか、蛭魔と、そういう行為をする事態が恥ずかしい。
 加えて蛭魔の方はというと平然とされたら、そこに差異を感じて悔しさも混じる。
 まもりは赤い頬を手の甲で抑えて目線を反らした。
 「やりてえんだから、しょうがねえだろ」
 ストレートな物言いにまもりは反発を上げようとしたが、それより早く蛭魔は立て続けた。
 「まあいいや。てめーが決めろ」
 蛭魔はそう言うと同時にまもりに向かって左手を振った。
 掌に握られていた物体が小さな放物線を描いて、まもりのスカートの上にぱさっと落ちた。
 危険物、――この男の場合それも冗談じゃ済まされなさそうだがそれにしては小さく平べったい物体だ。そうではないらしい。
 暗がりにまもりは目を凝らす。
 「まかせる」
 コンドームだと判別できた。
 「…わたしがやだって言ったら、やめるの?」
 矛盾する身勝手な想いだと自覚はあったが、蛭魔が恨めしくなった。
 正直な気持ちは、――やりたい。まもりは蛭魔とやりたい。
 しかし、踏みり方がわからないから戸惑っているいるのだ。
 嫌なら否と言うが、快諾は言い出せないから恥ずかしいと訴えたのだ。
 いっそのこと、奪ってくれるならいいとすら思ってしまう。
 「やめるな」
 蛭魔はきっぱりと言う。
 「おれはオメーとやりてえが、拒否するオメーとはやりたくねえ」
 まもりは、ちらっと蛭魔を覗き見た。その言い方に、何か、なんらかの引っかかるものを感じた。
 「…訊いてもい?」
 怒るかもしれない。怒るだろうか。これを言ったら。
 「なんだよ」と応じる蛭魔にまもりは尋ねた。
 「――拒否されたくないってこと?」
 間を空けて、蛭魔は応えた。
 「まあそうなる。やりてえから」
 少し調子に乗ってまもりは続けた。
 「わたしと?」
 「…なに嬉しそうなツラしてやがる糞マネ?」
 だって嬉しい、そうだったら。とりあえずまもりはそうだ、蛭魔に拒絶されたら悲しいし、蛭魔とだからまもりはやりたい。
 自分はひどく単順に創られたのだろうとまもりは思った。
 こんなにもすとんと落ちた。
 まもりは腕を伸ばして蛭魔の顔を両手で包み引き寄せた。
 蛭魔の薄い唇を見る。
 オンナノコからキスするのって、ほんと結構勇気がいる。いざまもりにその場面が廻ってきて、恋人のいる女友達や少女漫画で言われるセリフが本当だと痛烈に思った。
 でもこれから行なう言動はもっと勇気が必要だ。しかも相手はあの蛭魔妖一だ。
 白状すれば心の中で「えい」と掛け声をかけてまもりは蛭魔に唇を合わせた。
 するとすぐに蛭魔の舌が差し入れられてまもりは慌てながらもそれに応えた。
 まもりの唇と蛭魔の唇が同じ温度になってきて、一度止めて、蛭魔が言った。
 「いいか?」
 無粋な声だった。
 囁いたなどと甘いものではもちろんない。強要と言っても通じそうだ。いいか?
 いいなんてもんじゃない。だってあの蛭魔妖一なのだ。
 まもりは言った。ひどく恥ずかしいと思えるセリフだった。でも言った。
 「抱いて」
 (わたしも抱くから)
 方法なんてわからないまままもりは蛭魔に手を伸ばす。
 まもりの腕が蛭魔の首の絡みつき、口付けを交わしながら蛭魔はまもりの襟首のボタンを外した。
 
 「ううっ」
 口付けの感触を目をつぶって感じている間にまもりは上着を脱がされ、
 白いブラジャーに包まれたたわわな果実をあらわにした。
 「いい胸だ。」
 蛭魔は小さな声でそう呟くと焦らすようにまもりの首の辺りに丁寧に舌を這わせる。
 ゆっくりと、時には早く、その繰り返しにまもりは声を漏らす。
 「あぁっん、」
 蛭魔はニヤリと悪魔の微笑みのごとく微笑み下半身に手を伸ばす。
 まだ、胸には手を出さない。自分自身もその我慢の感覚を楽しんでいるかのように。
 蛭魔は決してあせらない。彼女から求めて来るのを待つために。
 パンティーの上から撫でる。ボール磨きで培った指先のテクニックを駆使して撫でる。
 湿ってきた。聞かずとも感じているのが分かるくらいに身を悶えはじめた。
 ついに、まもりが我慢できなくなった。
 「ど、どうして、・・・は、早く」
 まもりの訴えかけるような強いまなざし、猫のように弱々しい口調、
 蛭魔の心の奥底で興奮が最高に達しようとしている。
 片手が背中にまわる。
 まもりの胸の上で蛭魔の手が動く。
 ボタンの全てを外されて、スカートに差し込んでいたブラウスの裾を引っ張り出される。
 「…椅子にかけておいてよ」
 ブラウスを床へと落され汚いでしょと抗議する。
 毎日飽きもせずモップかけてんのありゃサボリかと言うのでそんなことないと反発するとじゃあいいじゃねえかと流された。
 「溜め息付いてんじゃねえよ」
 「付かせるヒル魔くんが悪い」
 ブラジャーの中に手を差し入れられた。
 「ん…はぁ…」
 今日は体育があったのでフリルが控えめにあしらわれた真っ白いので、ちょっとお気に入りのやつで良かったなんて思ったのだけれど。
 この人にはそんなの関係ないだろな、とも思い、肩ひもが腕から滑って落ちてくブラジャーにちらちらこんなこと考えている自分がどうにも照れくさい。
 「あ…ん」
 性的に感じている、かどうかは、はっきり言えばよくわからなかった。
 むずがゆいようなこそばゆいような、気持ちいいような感じはあるが明らかな快感としてはうまく掴めない。
 もしかして激しい動悸が邪魔をしているのかもしれない。よくわからない。
 どちらかと言えば「触られている」という事実に対して吐息が洩れている気がする。
 ただ、指の腹で擦り上げられ形を変えた自分の乳首が、人より長い蛭魔の指と指の間で踊っているのがひどく淫靡に目に映る。
 弾力性のある日焼けてないまもりの胸に、色の違う蛭魔の指が柔らかく埋ずまる。
 こめかみや耳元に寄せられる蛭魔の息に、乳房でうごめく蛭魔の手に、胸から頬へと熱がせり上がる。
 まもりは、首に絡ませていた手を蛭魔の肩に移動させ、さらに鎖骨の上を滑らせ、蛭魔のシャツのボタンに手をかけた。
 「わ、わたしだけ脱ぐの、は恥ずかしい…っ」
 その行動に蛭魔は何もコメントを寄せなかったのだが、照れ隠しが口をつく。
 実際自分ひとりが肌を晒しているのは不安と不公平を覚えてより羞恥心を煽られ理由はそれだけだったのだが。
 まもりの羞恥をお見通しで「何も言ってねえだろ」とくっくと喉を鳴らせた蛭魔は、動きの邪魔にならないようまもりの背中へと手を移動させ、皮膚や、時々髪の毛をいじる。
 それにくすぐったい中の快感を覚え声を殺しながら、まもりは蛭魔のシャツのボタンを外していった。
 どきん、と心音がひとつ飛び抜ける。
 蛭魔は細い。
 抱きついたとき自分の腕が回りきってしまう腰つきにも思ったが、肉がないのだ。
 骨格からして肉のつきにくい体質のようにも思えるが、だからといって華奢とは違う。
 薄皮の下に筋肉繊維だけを詰め込んで、余分なものが一切ない。
 開いたシャツの間に見える、薄い胸に張りついたぴんとした皮膚。腹筋の隆起の流れ。
 まもりは筋トレの補佐もするし着替えのときの上半身など見たことがないわけでもない。細かろうが軟弱な肉体ではないとは知っていた。
 でもこんな風にどきどき感じたことあったろうか。なかったと思う。目の前に迫っているからだろうか。
 「くすぐってー」
 触ってみたい、と思うまま沿わせたまもりの手を、実際にはさしてくすぐったさを感じていないような口調の蛭魔が掴む。
 まもりによってボタンを解かれ、中途半端に腕だけ通した蛭魔のシャツが青白っぽく揺れた。
 「あっ」
 前で縮めていた腕を伸ばされ、開いた胸元の頂きに立つ乳首を口に含まれた。
 「んんぅ!」
 熱い舌に包まれ蛭魔の尖った歯を感じ、いきなり腰が震えた。
 そのまま体重を寄せられ押し倒されてテーブルの上に仰臥する。
 「すげえ心音」
 まもりの胸の上に顔をうずめた蛭魔がケケケっと笑った。
 胸の谷間に口を押し当てられてぺろりと舌で舐められる。脈の震源地。
 「しょ、しょうがな…っあ!」
 この不整脈な鼓動はとっくに蛭魔に知られているとわかっているが意地の悪い顔で指摘されてカっとなる。
 だが蛭魔が与える感触に、急激に波に晒される。
 唇が肌の上をすべって山形のてっぺんに届くとそこの突起を弄ばれた。
 柔らかい舌に揺られて時に直裁的な歯の刺激を与えら、痺れる感覚に襲われる。
 「あぁ…んぅ、はあ…っ」
 もう片方の乳房は丸いカーブをすくいとるよう手をそえられて、指の腹で尖りを擦られ刺激される。
 「…んん…、あんぅ」
 どうしようもなく鼻から甘い声が洩れるのを止められない。
 快感が広がっていくのが、わかる。
 広がっていくというか、溢れ出しそう。
 じゅんと潤い腹の奥が熱を持つ。
 どんどん自分の身体が敏感さを増していくのがわかって、少し恐い。恐いし、恥ずかしい。
 「今は殺さねー」
 「…え?…あぁ!」
 鈍く熱くなっている頭に響いた蛭魔のセリフは、誰に聞かせるつもりもない独り言のような呟きで、まもりが聞き留めなかったら別にそれでも関係なかったのだろう。
 だから耳に入ったのはほぼ偶然だ。何を言っているのか、一瞬わからなかった。
 なお止まない愛撫に翻弄されながら、ぶれる思考でまもりは考える。と、ああさっきの会話かと思った。
 ミスをしたら殺していいとまもりのセリフ、ミスをしなければ殺さない今は殺さない(だから今はまあ、安心しとけ、それなりに)
 (――そういうこと、ね…) 
 蛭魔の天邪鬼な表現法は、いつも僅かにまもりの涙腺を刺激する。それをこの男は、知っているだろうか。
 蛭魔が与える甘い快感と眼球の奥に感じた鈍い波動に、まもりは眉間にしわを寄せてそれらを奥歯で噛み締める。
 蛭魔の頭を撫でようとして髪の堅さに気が付く。
 日中あんなに運動してヘルメットまでかぶっているはずなのに、崩れることがないのは何故だろう。
 かき乱してみたい。
 「てめ…」
 くしゃんと前髪を崩されてまもりの胸元から蛭魔が睨む。
 髪を下ろすと顔立ちが幼く見える。
 かわいい。蛭魔を純粋にかわいいと思ってしまった自分が我ながらおかしい。
 でも本当、かわいい。
 怒鳴りつけられそうだから言わないでおく。
 手を放すとぴょこんと元に戻ってしまった。摩訶不思議な髪の毛だ。
 これ以上やると怒られるかもしれないのでまもりは代りに蛭魔の首筋を撫で上げた。
 まもりがてへへと誤魔化すように笑うと、蛭魔もほんの少し笑いながらまもりの乳房に柔らかく歯を立てた。
 「…あ…はぁ…んん…っ」
 蛭魔の右手がまもりの身体のラインをなぞる。
 脇腹を通ってへそを掠り、スカートに伸びる。
 ぴくん、とまもりは緊張した。
 太腿に触れる。膝から足の付け根に向かって撫で上げられた。
 「…おい」
 蛭魔が言う。
 「足開け」
 緊張して、思いっきり下半身に力が入りこれ以上ないというほど股をぴっちり閉じていた。
 まもりはか細い声で訴える。
 「ど、どうやって?」
 「……」
 足の開き方を忘れた。
 「じゃー力抜け」
 「どういうふうに…?」
 「ふざけろてめー!ここまできて止めねえぞ」
 「やだ、止めないで!したい!」
 「……。じゃー開け」
 「命令しないでよ〜!」
 半泣きになる。
 足を開かないことには事が進まないとわかっているが、抵抗感が大きい。
 胸よりさらに他人に見せることなどない場所だ。
 しかも蛭魔の愛撫で自分がちゃんと濡れていると自覚がある。なおさら晒したくなどない。
 「ま、待ってよ…」
 とりあえず、深呼吸してみる。
 目をつぶって、息を吸い込み、吐き出そうとした、瞬間、
 「んきゃ!」
 蛭魔の手が腰の下に滑り込んだ。
 スカートがまくれ上がる。
 思わず反射的に抑えようと手を伸ばすが、体勢が不利だ。スカートの中を外気に晒すこととなる。
 すると蛭魔が、
 「おまえ…」呆れたような声を出した。「コドモか?」
 それから肩を震わせた。
 「…なによ?」
 あ、と思い当たることがあった。
 それにしても、相手の顔がそれなりに見える程度の暗闇の中で、目ざとい男だ。視力いくつなのだろう?
 「いったい今年で何歳デスカ〜?」
 「いいでしょっ別に」
 本日まもりが履いていたショーツはこれまたお気に入りのやつだった。
 白いコットン地の右サイドに、ワンポイント。
 商業キャラクターであるロケットベアがちょこんとプリントされたもの。
 「好きなのよ、かわいいじゃない」
 「へーへー」
 蛭魔が笑いながら応える。
 「どうでもいい。用があんのは中身だ」
 そのショーツに蛭魔は手を差し入れて、引き下げる。
 不本意ながらこんなことで緊張感を置いてきぼりにできてしまった。
 抵抗はしなかった。
 触れられると粘着質な音が立ったのがわかった。
 「あぁ…っ!」
 強い声。自分の口からこんな声が零れ出るなんて驚きだ。艶かしくいやらしい、あだっぽい声。
 「あ…はぁ…ぁんあ…ふぅっ…!」
 蛭魔の指が往復するほど嬌声が洩れる。
 まもりの秘裂を蛭魔の中指が上下左右に撫でている。
 その間も、胴体に覆い被さりまもりの乳房を蛭魔は唇で突つく。
 蛭魔の頭を抱きながら衝撃的な甘い震えを身体の中心から貫かれるよう感じていた。
 やめてほしいと思う。でもやめてほしくないとより強く思う。
 理性と羞恥心が頭の中でマーブリング状態になり、それらを快感という強い波がさらってく。
 こんなに気持ちいいだなんて反則ではないだろうかと思った。
 何に対して反則なのかそんなの知らないが、反応したくないと抗いを覚えたところで脈打つ喉と身体が止められない。
 「っああ…ぁん…はっ…いっぃ、っつ」
 いじられるたび熱が溢れる部位の奥へと指が進んできて、まもりは眉間に小さく皺を作った。
 生理用品なら挿入させた経験がなかったわけではないがその記憶など比較対象にならない。
 第一関節が食い込んできてああこれは蛭魔の指なのだと実に生々しく思った。
 「…くふ…ぅ…んん…」
 「ナカのほうが感じんのか?」
 少し身体を起こした蛭魔の問い掛けにまもりは首を縦に振る。
 感じるかどうかというより、指の付け根まで埋め込まれて侵入の違和感よか弱いので無意識的にそうしたまでだ。
 「あァ…あっ…!」
 くいんと中で指を動かされた。
 探る動きを繰り返えされ、奥まで入れた指を一旦引き抜き、また差し入れる。
 「あ…あ…うぁ」
 内部から敏感な部分を執拗に漁られるという行為にゾワゾワする。
 ボールを投げパソコンを操る蛭魔の手に長い指だと幾度も思ったが、それを自分が臓器の内から体感するなど思わなかった。
 背中を丸めてしがみ付いていた蛭魔の肩が、手から離れていく。
 空いていた蛭魔の左手が脱力していたまもりの膝裏にかかり、テーブルの上にその足を乗させた。
 まもりは慌てて靴の踵を端でつっかけ、履いていたローファーを床へ落す。とさっと軽い音がした。
 「はぁ…ん…、ね、ねえ…」
 まもりは掠れた声を蛭魔にかけた。「あ?」と応える蛭魔に言う。
 「ス、スカートに…ぁんん…靴下だけって、なんか、すっごく、…ああァ…、マ、マヌケ、じゃ、ない?…」
 本当は、開かされた脚と甲高く響く自分の声を誤魔化したくて口をついた言葉だったが。
 「マッパになりてえってことか?」
 「…いいデス」
 この場所でいくらなんでも全裸になるのは好ましことだと思えない。
 「…あ…はぅん…」
 蛭魔の身体が離れたことで余計に全てを覗き込まれているようで落ちつかない。手持ち無沙汰になった手の甲を前歯に当てる。
 蛭魔の指が掻き回されるたび湿り気を帯びた淫らな音は大きくなる。
 「…んう…あ…あ、きゃ…!」
 唐突に、右脚を蛭魔の肩に担ぎ上げられた。
 「え、やっ…?!なに…ッ?」
 吃驚して蛭魔の顔を見てみると、蛭魔は右の指はまもりの秘部に突き入れたまま、肩に担いだまもりの脚を隠す靴下を人指し指で突っかけつつつと下ろす。
 にやりと笑った、ような気がした。
 「ひゃうん!」
 脚首の一番細い部分をべろりと舐められた。
 腱に熱した蜂蜜を垂らされたみたいで背がびくんと浮き上がった。
 そのまま唇はまもりのくるぶしの膨らみを捉え、咥え込まれてその丸みを確かめるよう舌が這う。
 「や、やっ…ちょ…っ!」
 まもりの白くその場所の薄い皮膚に青白く走る血管の上を舌がつたった。
 筋肉が収縮する。そうなると、膣口がぎゅっとすぼまり、その隙を狙ったように(おそらく実際狙ったのだ)蛭魔の指が内部で曲がった。
 「ひぁっァ!」
 軽い火花が散ったように目の前がちばちばした。
 「あくぅん…!やっ、や…ぁあ!」
 脹脛に歯を立てられた。
 指を二本に増やされる。
 「んぅッ…っ…ァ」
 「痛てえかよ?」
 ちょっと歯を離した蛭魔が言う。
 どっちが?歯が?それとも指?
 蛭魔は大して顎の力を込めなかったけれどその尖りある歯に肉はしっかり食い込んだ。
 てんてんてんと点で円を書いた傷跡として小さく残る。血を流さず内出血に留まった歯型を蛭魔はれろりと舐め取る。
 「くぅ…っ、あァ…ッ!」
 普通こんなことするのだろうか?(…しない気がする)
 今なら蛭魔がカニバリズムだと言われても信じる。というか、むしろ似合う。
 蛭魔の指。蛭魔の歯。どちらにより感じているのかわからなくなる。
 脚を持ち上げられた角度がさらに蛭魔の指を収受する。
 恥ずかしい格好のほうがより快感を集め易いなんて人体構成にした神様はいじわるだ。
 速度を速めた指が膣壁をかき乱す。
 唇がまもりの脚を滑って這い上がり膝頭にキスされた。
 二本の指が愛液を吐き出させちゅくちゅくと音がする。
 頭の中心が痺れて心の底から溶け崩されていくようだ。
 陸に上がった魚にように開いた口から「あ、あ、あ…!」と断続的な声が止まらない。
 快感がぐるぐるぐるぐる急加速して、意思人格が遠心力で吹き飛んでしまいそうだ。
 そう、飛ばされる。足先まで力が込もり指がくっと丸まる。
 さ迷う手が蛭魔の肩にシャツの白さを見つけて握り込む。どこかに放り出されるこの感じをどうしたらいいのかわからない。
 「ヒ…魔…ぅく…っ」
 くぐもった声しか出ない。耳の良いこの男に届いてないわけでもないだろうが蛭魔の指は止まらない。
 「あ…ああ…ッん!あはっ!…ァああん!」
 得体の知れない緊張が、一気に大開放された。
 手の先でびぃと糸がほつれる軽い音がしたがまもりの耳には届かなかった。
 ひとりでに背筋が反り返り、瞑った瞼裏は真っ白だ。
 全身が快感という痙攣を起こし息が喉の奥に張りついた。
 それから、潮が引いてくみたいに身体中の力が抜け落ちる。
 「う、ぁ…ァぁ…」
 身体の震えが完全に止まってから、最奥まで突き入れられた蛭魔の指が引き抜かれ、脚を下ろされる。
 小さくひくついたけれど動くほどの気力は起きない。
 吃驚もしていた。今のが所謂、そう表現されるモノなのか、と。
 「おい」
 汗の張りついた前髪を、左手の爪でそっと取り払われた。
 「大丈夫かよ?」
 乱れた呼吸を一度こくんと飲み下してから、ゆっくり瞼を開いて蛭魔の顔に目を向ける。
 目線が合ったまもりの目の前に、蛭魔はその右手を掲げた。
 瞬時にカアアっと全身が発火する。
 蛭魔の右手はまもりの愛液にまみれて手の平まで光り、中指と人差し指の間につうっと架かった細い橋が室内の微光を集めて消えた。
 「ちょっ!やッ…ぁ!」
 慌てるまもりにニヤっと笑った蛭魔が、言い放つ。
 「My DICK is as very big as it can't compare with this. Are you all right?」
 「な…ッ!」
 完璧に流暢な蛭魔の英語をまもりのリスニング能力はしっかり聞き取った。
 「ぅ…」
 唇を噛み締め眉を八の字にして蛭魔を睨む。どういう表情を作ったら良いのかすらわからない。
 「……もぉう…っ、ばかぁ…!」
 言い返したかったけど、鈍った思考では何も思いつかず。結局顔を腕で隠してそんなことしか言えなかった。悔しい。
 ケケケと蛭魔が笑う声とベルトのバックルを外す金属音を聞いていた。

 

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