少し沈黙の間があって、まもりは静かだなあなど思っていたら、前触れなく、顔の前で交差している腕を蛭魔に取られそのままぐいっと引っ張られた。
 「ちょっと寝転がってねえで起きろ」
 「う、っわ?!」
 背中に片手を沿えられ強引に上半身を起こされる。
 突然強制的な力で天井から壁へと視界が回ってまもりは慌てた。…が、直後これより慌てることになるのをこの瞬間はまだ知らない。
 いや慌てるという形容を飛び越し、狼狽、動転、――戦慄したと言いきってまもりには過言じゃなかった。
 蛭魔に左手首を取られながら肩を抱き寄せられ抱きすくめられた。
 「わ、ど…」
 「いじんじゃねえぞ」
 どうしたの?とまもりが言う前に、蛭魔は掴んだまもりの左手を自分の下半身に持っていった。は?いじるって?と質問する暇もない。
 「ゴム着けってから、ずれる」
 つまりは男性器に触れさせた。
 「――?!!!」
 頭の中心に、巨大なクエスチョンマークが居座りその周りをイクスクラメーションマークが乱舞した。
 その瞬間のまもりは、漫画だったら全身逆立つ表現で描かれただろう間違いない。目玉が真ん丸く飛び出たかもしれない。
 「なー、なななななッ?!」
 ついでに言語障害に陥った。
 一瞬、意識が遠いところへ旅に出る。
 ごく幼い頃セナと入った風呂の記憶が蘇り、
 ちっちゃい頃のセナってばホントかわいくて現在でも大好きだけどでもその『コレ』がどんなだったかなんて覚えてないわそれ以前に状況も状態も全然違うから!!と、
 セピア色の想い出から現状況までが駆け抜け自己ツッコミを入れるに到った。
 到ったところでどうしようもなかった。
 まもりとしては知識としてわかっていても実物を目の当たりにするのは初めてだった。
 肩に顎を乗せ耳横で互いの顔が交差しているので目線は壁で下に向かうことはなかったがそんなことは問題ではない
 とにかく予告もなく触らせられるとは考えてもみなかったのでショックが貫いた。言うまでもないが予告あれば良かったという話しでもないが。
 「いや落ち着け。手榴弾握らせてるわけじゃねえし」
 まもりのパニックぶりに軽く喉を揺らせながら蛭魔が言う。
 何このヒトからかってるの?!てか、なんで平気なの?!反射的に手を引こうとするが蛭魔がそれを許さない。
 「まあ、息吐き出せ。んで吸え」
 まもりの様子にまたひくひく蛭魔は笑いながら深呼吸しろということらしい。
 それよりもとりあえず放して下さいと言いたいが(何故敬語なのか自分でも知らない)浮かぶ言語が声帯を震わすまでに到らない。
 「は、は、は…」くしゃみではない。
 「断る」
 それでも通じたらしいまもりの意志に蛭魔はにべもない。
 蛭魔の手が背中を撫でて、硬直した身体がびくんと震えた。
 でもそれは、官能的な意味合いの仕草には感じられず、回った腕にぎゅっと抱き締められる。少し痛いくらいだった。
 そういえば性器に触れさせるというこの行為も、性ニュアンスを感じ取るものではなように思えた。いやもちろんそれは、大きく直立しているわけだが。
 そうしているとバクバクいっている心臓と左手の平だけにしか自分の神経細胞は残っていないんじゃないかと思われた。
 なんだかやけにべたべたする。
 ゴム着けてるって言ったっけ、保健の授業でコンドームにはゼリーが付着しているという知識が思い出されてそれがこれかと思った。
 そんなことを思い出せるくらいには、落ちついてきた。
 「だから、いじんなってんだよ」
 ちょっと指先を動かしただけのまもりに蛭魔が言う。
 「いいいいい、いじってないわよ!」
 言い返せるくらいには回復した。
 「なあ、」鼻先で髪の毛を掻き分けられる。「お前わかっているか?」
 すぐ耳元でしゃべられて小さく震えた、が、これも、性的アプローチではなく感じられた。
 何が、と訊き返そうと思って、なんとなく、留まった。
 何がしたいんだろう、このヒト?さっぱりわからない。蛭魔のすることなど、いつもわからない。
 蛭魔の唇が動いて耳朶が揺れる。
 「お前、わかってんのかよ」
 同じ言葉が繰り返された。
 蛭魔が二度同じことを言うなどとても珍しい。
 珍しくて、蛭魔の身体が密着していて、わかってしまった。
 どうしよう、と思った。
 どうしたらいいのだろう。気の利いた睦言のひとつ言うべきなのだろうか。世の中の男女はそうしているのだろうか。
 でもまもりにとっては初めての場面だし元々男女関係に精通している方でもない。キャパシティがない。そして相手は蛭魔だへたなこと言えない。
 こんなとき何て言えば良いのだろう。
 何も言いたくなんてないのに。そして蛭魔にも何も言ってほしくない。本来なら蛭魔がこのまま突っ切ってくれるのが一番の近道なのに。
 何も言わないでというは簡単で事実、蛭魔は何も言っていないし言わないだろう。
 「…逆だったら良かったのにね…」
 密着している蛭魔がまもりの言葉に「あ?」と言う。
 「わたしが男で、ヒル魔くんが女だったら良かったのに」
 言ってから、あ、やっぱりそれじゃ駄目だと思った。
 自分はやはり蛭魔に言えることがない、と。
 それじゃ蛭魔はアメフトが出来ない。あれは男のスポーツだ。
 それは女だって、多方面からアメフトに関わるのは可能と言える。
 チアのひとつにしたって声援をあれだけ盛上げるのは試合で敵のプレイコールを妨害するためという裏の意味もあったり、
 主務にしたってマネージャーにしたってそのプレイコールひとつを成り立たせるため深く作戦に関われる。
 おそらくはベンチがこれだけ試合をも携わっていると実感できるスポーツはなかなかない。
 だからまもりはアメフトが好きだと正々堂々言えるのだ。大きな和。能力が活かされると事実として手に残る。
 しかし、蛭魔が望む形は選手としてアメフトをすることだ。
 フィールダーであることを願った雪光とそれは気持ちは同じ。
 それ以外の形を望んでいない。
 アメフトをしていない蛭魔など、蛭魔ではないだろう。
 それどころかはっきり言って、存在意義を見出せないと言っていいんじゃない?なんて思ってやる。
 ではまもりが男なら良かったのだ。
 女だったから、あのファーストキスも蛭魔の感情に触れることであり、蛭魔の感情を引き出した結果であり、
 そういう意味では男女のキスというものとは少し違ってくる、のかもしれない。
 親愛の形といったものか、しかしキスなんて元来親愛を込めるものなのだから具体的には上手く答えられないが、
 ただ言えるのはまもりが女じゃなかったらキスをいう形を取らなかったということなのだ。
 まもりが女だったから、ここまで来てしまった。
 そしてそれを忌々しく思っているのは、蛭魔なのだ。まもりはと言えばそんなことに迷っていない。
 ――ざまあみろ。まもりは思った。そうとしか思えなかった。
 最中もずっと思っていたことだけれど、蛭魔は散々まもりをからかうし口では無慈悲みたいな宣言をしながら、
 それでも本気でまもりが否と言うなら、この後に及んでだろうがなんだろうが、止めるのだろうと。
 それは蛭魔が持つ性根としての優しさと、それから実は、――これはたった今そうじゃないかなあと思った予想だが――
 優しさにはならない部分から発生しているものだった。
 でも止めなかった。ここまで来てしまった。
 握っていたまもりの手首を、蛭魔は放なす。
 「何を言っていやがる。そりゃ随分と無気味な提案だな」
 ケケっと笑う。止まっていた時間を動かしたのは、蛭魔だった。
 「うん。わたしも言ってから、ぞっとしたわ」
 放された手を代わりに蛭魔の腰に置く。まもりを抱き締める蛭魔の力も弱まって、まもりはちょんと肩を竦めた。
 「寝ろ」蛭魔はとんとまもりの肩を押す。
 「起こしたのはヒル魔くんでしょ」
 言い返しながらも、身体を横たえる。
 目の前に広がった暗い天井に、一度瞳を瞑った。
 太腿を撫でられ持ち上げられて、ぶるっと身を震わす。
 片手が伸びてきて前髪を大きな手で掻き上げられて、乾いている指先の体温は低いのか、とても気持ちいいと思った。
 「…っぁ」
 あてがわれた蛭魔の堅さは手で触れたときよりも火傷しそうに熱く感じられて、ぴくりと驚き、何故だかきゅっと胸が痛んだ。
 うっわまずいなこんなトコロで泣いたら絶対誤解される、そう思って目を瞑る。
 実際、なんで自分が蛭魔の強固な熱で涙腺を揺さぶられるのか、説明つけられなかった。
 恐怖とは違う。それを言うなら、まもりは我ことながらここに来ての恐怖心は薄い。
 まるでないわけではないし緊張はしている。体感するだろう痛みに畏縮も消えないけれど、それらに対して腹は定まっているからなのか。
 まあこの直前に無茶やられて内面的衝撃は体感済み、ということも作用しているのかもしれない、それが良かったなどは言わないが。
 「力抜いとけ」
 歪んだ表情にかけられた声のタイミングに、やっぱり勘違いさせただろうかと僅かに慌てた。
 「あ、いや、別に、そういうんじゃ…」
 具体的に止めるかとか恐いのかとか言われたわけでもないので上手く言葉が出てこない。
 そうすると、ついうっかりとんでもない事を口にした。
 「キモチイイ」
 「……」
 「……」
 まだ入り口に触れただけだったしそれで撫で上げられたわけでもない。
 実際気持ち良さの欠片も込もってないような棒読みした言い方だったので蛭魔も「頭ワイテんのか?」みたいな顔してた。
 でも、ああそうなのかもとも思った。蛭魔の熱に反射した感受性は、よくわからないけれどこの表現が一番しっくりするような気が、
 なんとなしした。
 まもりの内心など知る由もない蛭魔が言う。
 「エロいよなおまえ」
 とりあえずその尖鋭的な耳を引っ張った。
 「何しやがる!」
 「なんてこと言うのよ!」
 手を取り払い蛭魔はその指でまもりの鼻を摘み上げ、にやにやと笑う。
 「期待してっとこ悪いけどよ、たぶんヨクなんねえんじゃねーかと思うぞ挿れても」
 「きた…!」蛭魔の手を払い除ける。「してないっ期待なんて」
 「あァ?」蛭魔の眉がひくりと吊り上がる。
 「あっ!…ぃぅん!」
 蛭魔の腰がぐっと近づいた。
 「それはそれでムカツクこと言ってんじゃねー」
 「くう…ぅ!」
 圧迫感が襲いかかり身体に力が入る。鋭い痛みに顔を歪めた。
 すると蛭魔との接着部のすぐ上に指先を当てられ、ぬめりを広げるみたいにゆるゆる動かされた。
 「あッ、んん」
 「すげえ濡れてっから挿んだろ。拒んでんじゃねえよ。力抜け」
 その指が短い糸を途切らせ離れて、蛭魔は寝ているまもりの横に手をついた。
 まもりの上に影が落ちる。この時になって、蛭魔のこめかみに汗が浮いていると気が付いた。
 いつ汗などかいていたのだろう。
 蛭魔も熱いのだろうか。自分が発熱しているので相手の温度はよくわからない。
 簾みたいに垂れている蛭魔のシャツを両手で握る。
 「…いたい、ヒル魔くん」
 腰を押し進める蛭魔にまもりはか細く訴えた。
 「あー?アタマ挿っちまえば後は楽になんじゃね」
 知らねーけど、とどうでもいいみたいな言い方されて蛭魔の腰は沈んでくる。
 アタ…、ってあとどれくらいよ一体?先ほど触れたものではあるがそこまで記憶に残っていないので検討がつかない。
 だいたい、これってまだ全然入り口よね…?と不安は募る。
 蛭魔の唇や指はあんなに気持ち良かったのに、この痛みはなんと言うか、暴力的だと思った。
 さっきのアレが入ってきてるんだもんなあそりゃ痛いよねと奇妙な納得を感じながらも、身体はまさに
 身を引き裂かれるという表現を体験している。
 「…あ、ぐ、……いったぁい…」
 痛いと訴えても蛭魔が止めないと信頼できた。
 本来まもりは痛みや弱さを人に見せたくない性質だ。それはプライドの問題というより、それによって
 周りが自分のことで気遣いするのが兎に角嫌だという理由だ。
 蛭魔に対して強がるときは、いつもプライドの問題だ。
 そして今このときは、そのどちらも固執する必要がない、むしろ固執すべきではないのだろうと素直に思えた。
 「ね…、さっきの、やっぱり、ちょっとウソ」
 乱れる呼吸を呑み下しながら言った。
 「…してる、ほんとは、期待。あなたに。…少し、ね……それなりに」
 蛭魔に対して過剰を寄せるのは危険だ。言い方はそんなものになった。
 「うるせえよ」
 「あくう…、うんっ!」
 糞生意気なんだよてめーは、そう言いながら蛭魔の身体が倒れてきて、膣口へずんと異物が埋まる感覚に
 苦痛の声が洩れた。
 顔の真横に腕を付かれ、特徴的な長い指で頭をすっぽり掴まれてしまう。
 「何がそれなりだこらァ」
 まもりが腹の裡で物を言っていると蛭魔はもちろんわかっている。
 「や、ちょっと、やめてよ」
 髪をぐしゃぐしゃに掻き回わされた。
 言われたら嬉しいのだろうか。どうなのだろう。嬉しいともそうじゃないとも言えばいいのに、蛭魔は絶対に言わない。
 抗議を上げる唇に舌が伸びてきてなぞられる。
 「ん…ふう…」
 苦痛と甘さが混雑した声がまもりの唇と蛭魔の舌を通って洩れる。
 どちらかと言えば圧倒的に苦痛の方が勝っている。
 「苦し…」
 酸素を求める唇を離されて、髪の毛を掴んだままの額に蛭魔の顎が移動して身を乗り出される。
 じわじわとした異物感に肉を切り開かれる痛み。息が詰まる。
 「はぁ…、いま、どれくらい?…」
 「半分」
 先端が挿っても痛いじゃない、ウソツキと言いたくなったがそういうわけにもいかなくて唾をごくっと飲み下した。
 身体中からどっと汗が噴き出し肌をてらてら濡らしていく。
 「ちょっと、てめ離せ」
 「…え?」
 いつの間にか、自分でも知らぬうち蛭魔にしがみ付いていた。
 しかもシャツの中に手を差し入れて肌に直接。
 蛭魔はまもりに覆い被さっていた上体を起こす。湿った肉体が腹の指を官能的に滑って遠退のく。
 「きゃぅ!」
 角度が変化し違和感という痛みが下半身を駆け抜け、急に動かないで!と叫びたかったが小さな悲鳴にしかならなかった。
 「あちー」
 蛭魔は言うと同時に、既にボタンが外されて意味の成していなかったシャツを脱ぎ捨てた。
 ばさ、と汗の吸い付いた布が風と絡んで放り出される。
 その一連の動作を自分の身体の上に見上げるという一瞬に、まもりは、今まで感じたことのない種類の鼓動が胸を貫いた。
 うひゃあ、と何か慌てて心臓が高鳴る。
 蛭魔が、無茶苦茶に色っぽかった。男のヒトを色っぽいと思ったのは初めてだった。
 上半身を晒した蛭魔は文字通り骨っぽい体つきなのだと見えるが、骨があって、強くて渋い種類の色気。
 今更にこの身体と抱き合っていると思うと、どうしようもなくなって顔と頭に血が上る。
 その反射は、子宮という部分に直結するらしい。
 蛭魔が、まもりとの結合部分を覗き込むよう目線を下げた。
 「ばッ…!」
 ばかっ、と言葉にならないままスカートを抑え込んだ、今更ながらとわかっていても。
 物凄く嬉しそうに蛭魔はにやけて意地悪く一言。
 「スケベ」
 「……ッ!ヘ・ン・タ・イ!」
 牙剥くまもりを意に介さずケケケと高笑いしながらまもりの脚を指で撫で上げ蛭魔は再び身を折る。
 「ん…っ、く、…ねえ、さっき、あの噛まれたトコロ、脚、アトになったのかな?…」
 ふと思い出して尋ねてみる。
 「しばらくそのままじゃねー?」
 キスマーク、というのなら話しはわかるが、いやキスマークでも十分困るが、歯型。
 「まだ、水泳の授業が、終ってないって、わかってる?」
 どれくらいで消えるものだろうか。赤い鬱血なら虫刺されとまだ言えるが、これは犬に噛まれたとも猫に噛まれたとも言えない。
 ヒル魔くんに噛まれました、…シャレにならない。
 「なら見学で一時間暇してんのもなんだからよ、対戦校スパイしてこい」
 「…まさかと、思うけど、狙ったんじゃ…ないでしょうね?」
 蛭魔は答えない。悪魔の笑いは止まらない。
 肉体は苦痛を訴え続け汗は流れてきつくてたまらず。
 その後も何かと故意にまもりを逆上させる蛭魔は心底腹立たしいのだが。
 何故かわりと、楽しかった。
 このときに楽しいという感情を思い起こせる自分の廻り合わせは、ラッキーなのだろうと憶測できた。
 蛭魔もそうだったらいいのに、と思った。
 標準時間などまもりは知らないので推測だが、挿入に長く長く時間を懸けたと思う。
 蛭魔の動きはじりじりとした空気と時間の流れを作り出して、それがまるで、何も焦ることがありはしないと言っているみたいで、
 嬉しかった。
 そんなの蛭魔の性質に不釣合いだしまもりをからかい面白がることも常なので確信など見えない。
 ただまもりはそうだったらいいのにと思っただけだ。
 「……はぁ…」
 脇から手を差し入れて右手で筋肉が入った丸い肩を左手で背骨の窪みに触れる。
 姿態は大っぴらに開脚した無様なものだとしか思えないしつま先は張り詰めて一歩間違えれば攣ってしまいそうだし。
 蛭魔が突き刺さった部分を中心にみぞおち辺りまでがしっかり痛くて、それが内部からの刺激であるせいなのか
 頭蓋骨まで響くようだった。
 囲われた蛭魔の輪の中は少し息苦しさを意識せずにいられない。
 でも、人と密着しているとどうしてこんなにほっとして、不思議なことに気持ちは楽なのだろう。
 それが素肌であると、どうしてこんなに気持ちいいのか。
 纏わり付いているスカート一枚の距離さえ邪魔だ。脱いでしまってもかまわなかったとこの時ばかりは本当に思った。
 「足、おれに乗せろ」
 痛みをやり過ごすため小刻な呼吸を繰り返す間にそう言われ、広げた脚を蛭魔の腰に巻き付けるよう誘導される。
 「え…だって、…ハズカシイ」
 「アホか」
 捨てきれない羞恥心をアホ呼ばわりされて理不尽に思ったが、導きのまま脚を絡めた。
 蛭魔の腰に引っかかっているベルトが踵にひやりと掠る。
 この方が体勢として疲れない。そして内からも外も蛭魔と触れる面積がまた少し増える。
 片手を腰の下に置かれさらに互いの隙間をなくされる。
 こめかみに吹き掛かってくる蛭魔の呼吸に表皮が火傷をしそうだと思った。でもどうせ自分の頬も負けぬほど熱いのだろう。
 「っ……あ…」
 股関節がぶつかり重なり合って、自然と今までより高いキイの吐息が滑り出た。
 すべてがまもりの内部に沈んでから間を刻み、そして蛭魔の律動は緩慢だった。
 それでも埋め込まれた物を再度引き出される感触に、血の気を吸い取られるみたいな心地悪さを覚える。
 外れないよう一部分を残して、またまもりの胎内に戻ってくる。
 「食いモン盗られたみてえなツラしてやがる」
 と、首の後ろに手を入れられ苦笑いみたいな表情で言われた。
 縦皺が寄るまもりの額を蛭魔の前髪の先が掠める。
 その比喩表現は一体なに?と思ったけれど、どうしようもなくて、
 「痛いのよ」
 とセリフとは不相応にまもりは微笑して、とりあえず言った。
 眉は歪むし鼻水が出てしまうそうな気配はあるしで、ああブサイクだろうなあと笑顔への程遠さを感じていたが、
 蛭魔に気を使ったつもりもなく表情筋は笑いを模った。
 苦痛もあったが、どうしてか、子どもみたいに泣きじゃくりたいような高まりが沸き上がり、まもりは内心それを抑え込む。
 しているのはこんなにふしだらな事なのに、大人になったというよりは、何か純な、もしくはそれに似た気持ちだ。
 恥ずかしい部分を晒してその弱さも出すからだろうか。
 「…ぅん」
 首の下にあった手の平が肩、鎖骨、乳房をいじり脇腹を這う。
 愛撫というよりも輪郭を確かめるみたいで、手付きはくすぐったかった。
 「…平気そうか?」
 声を出すのが億劫で、蛭魔の問いかけに目だけで何?と訊き返す。
 「動きてーんだけど」
 「……」
 抽送を休めないままに言われた。
 「いきてえ」
 まもりの顔を見て言う、二cm動くのに七秒くらいかけていた。
 …え…と、つまりハゲシクしていいか、ということよね…、と察した。
 勘弁願いたいのは、本音だ。現段階でもこれが快感に繋がるなんて嘘じゃないのかと肉体から抗議は絶え間ない。
 まもりの負担を蛭魔もわかってわざわざ尋ねてくるということは、…これは覚悟しなければならないということだろうなあ、
 と引き攣った笑いが内心で零れる。
 正直なところは、――恐かった。
 まもりはこれまで、蛭魔を恐れたことが一度もない。
 これは意地でも何でもなく、本当にそうなのだ。
 とんでもないなんてもんじゃなくて悪の根源だと本心から腸煮え返る思いは多々だが、だからとまもりに恐怖ではないのだった。
 ああ恐いなあと思いながら蛭魔の首に手を伸ばす。
 「う…」
 上半身を起き上がらせると下半身に痛みが走る。上体を肘で支えて片手は蛭魔の首に抱き付けて、額を肩に乗せ、
 口から言葉が零れる。
 「あ、く、…ヒ…ル魔くん、を、抱きたい…」
 そうしたかった。
 「ちゃんと…、ヒル魔くんを…抱きたい」
 背中に腕を回される。
 きんと何か金属のぶつかる音が耳につき、蛭魔の腰に垂れているベルトかと理解した。
 「ッアア!」
 叫び上がった喉に口付けられ後ろへ崩れる身体をそのままに、背中にあった手が細腰に移動して掴まれる。
 「こっちゃあソッチの事情なんてわからねえからよ、限界は言え」
 じわりと引き抜かれ、蛭魔の動きの大きさと速さが、変動していく。
 「…うう…んっ、あはっ」
 苦しさを堪えて酸素を求めるために声が出る。
 擦り傷にわざわざ触れられそこから肉を裏返されるみたいな痛みだ。
 正規の内蔵の位置を無理矢理どけて蛭魔を迎え入れている、そう思った。
 強張る脚を蛭魔の両脇に抱き支えられ、力の入る手先の指を握って肢体を揺らさせていると、ふと、脚を放された。
 いきなり、蛭魔は仰向けだったまもりの身体をぐいっと抱き起こした。
 「きゃ?!ひ、っああぁう!」
 奥の奥まで蛭魔が根深く串刺さり、悲鳴がほとばしった。

 

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