知り合ったきっかけは、それこそ漫画のようだった。
他店よりも早くジャンプを売り出すコンビニに、いつものように寄った日のこと。
「あっ」
「ハ?」
売り切れ間近の最後の一冊へと伸ばした手が、背後から伸びてきた手にぶつかったのだ。
振り返るとそこには、気の弱そうなメガネの女が立っていた。着ている制服から見るに、同じ泥門の生徒らしい。
反射的に出してしまった威嚇するような声に、目に見えて怯えている。
「ご、ごめんなさい・・」
「・・・別に」
女に喧嘩をふっかける程バカじゃない。戸叶はぶっきらぼうに身を引くと、彼女に背を向けてその場を離れようとした。他にも買えるあてはあるのだ。
「あ、あの!良いんですか?コレ」
驚いて、女は戸叶のシャツの裾を掴んだ。呼び止めるためとは言え見ず知らずの女に服を掴まれ、戸叶は不審そうにその手を見る。
あわてて手を離すと、彼女は小さな声でごめんなさいと謝った。
「他にも買える店知ってっから。それはアンタが買えよ」
「でも・・・私、立ち読みするだけのつもりだったし。その、ろくでなしブルースの続きが気になって」
「は?何だって?」
「いや、あの・・だ、だから。これはあなたが買って下さい。私は別に良いですから」
女は相変わらず怯えた様子で、今にも逃げ出しそうである。戸叶は別に怒っている訳では無いのだが、この風貌と声が相まって、無意識のうちに威嚇してしまうらしい。
彼はどうしたものかと、ワックスでセットした頭をぽりぽり掻いた。
「アコ!もう読み終わった?」
馴染みのある声が聞こえ、戸叶はそちらに視線を巡らせた。見れば、アメフト部のマネージャーが店の入り口に立っている。
その声に、メガネの女は助かったという表情で振り返った。
「うん。今行・・」
「あれ?戸叶君?」
まもりは戸叶の姿を視界に収めると、珍しい物を見つけたように目を丸くする。
「ウス・・」
「おはよ。お家このあたりなの?びっくりしちゃった」
「まあ、そっすね。先輩こそ、ここらへんなんすか?」
意外な人の登場に、まさか近所に住んでいたのかと、戸叶はどこか気まずくなる。
あわてたように、まもりは両手を振った。
「ちがうわ。このあたりに住んでるのはその子。同じクラスのアコって言うんだけどね、私は昨日泊まっただけ」 
そう言ってめがねの女を示すまもりに、戸叶は思い出したようにそちらを見る。
アコと呼ばれた彼女は、友人と不良風の男の関係に戸惑っているようだ。
「え、何?まもの知り合いなの?」
めがねの奥の目をしばたかせ、戸叶とまもりの顔を交互に見比べる。
「アメフト部の一年生なの。戸叶君。見た目はこうだけど、良い人なんだから」
「『こうだけど』ってオイ」
悪気無い口調に、戸叶は苦笑した。
「で、二人で何を話してたの?」
まもりは当然の疑問を口にする。
「コレ」 
棚に置かれたジャンプを、アコが手に取った。
「一冊しかなくて。この・・・戸叶君が買いたいみたいだから譲ろうと思ったの。私は立ち読みしたいだけだし」
「他の店でも買えるから良いって言ってんだろ」
「でも、悪い気がしちゃうもん。やっぱり戸叶君買いなよ」
まもりの友人らしい、意思の強い瞳が戸叶を見つめる。これ以上彼が何と言っても、聞きはしないだろう。
けれども一つのことが引っかかって、戸叶は素直にジャンプを受け取れないでいた。
ウンウン悩みながら首を捻り、そして思いついたように口を開く。
「それなら、俺がこれを買って今日中に読む。それで放課後に貸してやるよ。あんたも腰を据えて読めるし、俺も早売りを読める。これでどうだ?」
そう言って、戸叶はアコの手の中のジャンプを取り上げた。
アコは彼の提案に戸惑いの表情を浮かべる。
「え?良いの?」
「良い良い。ろくでなしブルースを好きなやつに悪いやつはいねえな」
そう、戸叶が気にしていたことはこれだった。彼の心のバイブル・ろくでなしブルースを好きだと言うアコを、邪険に扱うことができなかったのだ。
密かに師と崇める森田先生を、悲しませるようなことはできない。

こうして最初の契約は成立し、二人で作品の感想などを言い合ううちに、いつの間にか早売りジャンプの貸し借りが毎週の約束事のようになっていった。
彼氏彼女でもなければ友人というわけでもない、戸叶の厚意にアコが甘えるだけの不思議な関係。黒木たちの邪推を軽くあしらいながら、戸叶も悪い気はしなかった。
周囲が邪推さえしなくなった頃、二人の関係は変わりようもないように見えていた。

ある出来事さえ起こらなければ、変わらないはずだったのだ。 

「ックショ!」
盛大なくしゃみと共に、戸叶は目を覚ました。
冷えきった室内に思わず肩を震わす。テーブルの上のリモコンに手を伸ばし、あわててクーラーを切った。
「やっちまった・・」
リビングのソファーの上、ズキズキと痛みを訴える頭を抱える。
なんてことだ。超が付くほど健康優良児な自分が、いつぶりかも覚えていない程久しぶりに風邪を引いてしまったらしい。
戸叶は、浮かれきっていた自分に喝を入れたい気分だった。
両親の旅行を良いことに、扇風機しかない灼熱地獄の自室から、空調の整ったリビングに居住空間を移したのは昨夜のこと。
室温を自分好みの低さに設定し、お気に入りの漫画を持ち込んで読みふけっていたのだが、気付かないうちに眠り込んでしまっていたらしい。
睡眠中も下がり続ける室温に体まですっかり冷やされ、こうして風邪を引いてしまった。
「クッソ・・ジャンプが読めねえ・・それと部活も出られねえ」
悪魔の司令塔が聞いたら、順番が逆だと怒りだすだろう。けれども戸叶の優先順位は、あくまでもこれなのだ。
早売りジャンプが売り出される今日に限って、風邪を引いてしまうなんて運が悪い。
仕方ない。アコにはメールで謝っておこう。十文字たちにも、今日は行けないと伝えなければ。
そんなことを考えながら、戸叶は携帯を片手に、フラフラと自室へと戻っていった。
湿った布団で泥のように眠り、目が覚めた時、室内はぼんやりと薄暗かった。もやのかかった頭で時計を見ると、既に夕刻を示している。
完全に眠り過ぎだ。戸叶はもそもそと布団から這い出ると、ゆっくり伸びをした。
まだ少しふらつくものの、それは寝過ぎによるものだろう。高熱と頭痛は、大分治まったようだ。常備薬を適当に飲んだだけだが、含まれる半分の優しさが功を奏したらしい。
充電中の携帯電話を見ると、何通ものメールが届いていた。
『風邪なんてずりぃぞ。俺だけがバカみたいじゃん!』『大丈夫か?』『風邪はどう?明日も、無理しなくても良いわよ』『フゴ』『大丈夫〜?甘い物が体に良いからね!ゆっくり休むんだよ』
似たような時間に送信されている。俺も随分と愛されるようになったものだと、頬が緩みそうになった。
『風邪引いたの?お見舞い行こうか?何か欲しい物とかあったら買っていくけど・・』
最後に届いたのは、アコからのメールだった。送信時刻を見れば、一時間以上も前である。
戸叶は首を捻る。この家の場所を、彼女は知っていただろうか。
そうして以前、一度だけ漫画を読みに訪ねてきたのを思い出した。
『ジャンプ。あと食い物』
それだけを打って送信する。他の奴らは良いだろうと、返信もせずに携帯を閉じる。
すると、ものの数分も経たないうちにメールの受信を知らせる音が聞こえた。アコからの、了承した旨を伝えるものである。
自分からの返事を待っていたのかと思うと、戸叶は妙に心が弾むのを感じた。
のっそりと立ち上がる。人が来るならば顔ぐらい洗っておきたい。着替えを持ち、洗面所に向かった。

『ピーンポーン』
十分も経ったころ、戸叶家に来客を告げるチャイムが鳴った。
予想外の早い到着に、戸叶はあわてて玄関に向かう。
「おーう。ちょっと待ちな。何だよ、はええな・・・っておい」
「よっ!おとなしくしてたかトガ!見舞いに来てやったぜ」
鍵を開けて来客を迎え入れると、そこにいたのはアコではなく、見飽きた顔の悪友たちだった。
「なんだ、誰か来るところだったのか?親は留守なんだろ?」
戸叶の様子から、人を待っていたのを察知したらしい十文字が尋ねる。
「や、まあ・・親はいねえけど。その、なんだ・・」
まさかアコが来るとも言えず、戸叶は口ごもる。別に、ただのジャンプ仲間が見舞いに来てくれるだけなのだから、やましいことは何も無い。それでも彼らにからかわれることは目に見えていて、正直に事実を告げるのは気が引けた。
こうしている間にも、アコはこちらに向かっている。彼女と悪友たちの鉢合わせだけは、なんとしても避けたい。
「あーもう、帰れお前ら!悪りぃけどよ。人が来んだ、人が」
困った様子で、戸叶は頭を掻く。
「はぁ?」
「はぁぁあああ?何だよそれ!せっかく来てやったのによお!」
勝手に靴を脱ぎ、一足先に家に上がりこんでいた黒木が、心外だというふうに叫んだ。
「だから謝ってんだろ」
「なんだよ、俺らより大事な客が来るわけ?」
口を尖らせる黒木に、どうしたものかと戸叶は壁に寄りかかった。
すると、
「ん?」
玄関先に立っていた十文字が何かを見つけたのか、アパートの廊下をじっと見た。
「おいアレ・・」
彼が指差す先を、まさかと思いながら眺める。待ってはいたものの、今この瞬間だけは現われて欲しくなかった人の姿を認め、戸叶はその場に凍りついた。
何々?と靴下のまま黒木は廊下に出る。彼もまたその姿を認め、十文字と顔を見合わせると、にやりと人の悪い笑みを浮かべた。
「なるほどなあ、そりゃあ、俺たちは邪魔だよな」
「先輩先パーイ!こっちっすよ!」
廊下に向けて黒木は大きく手を振る。
「あれ?えっと・・黒木君と十文字君だよね。おはよ」
「はよっす」
身を引いた十文字の後ろからひょっこりと現われたアコに、戸叶は曖昧な笑顔を向けた。
「おはよう、戸叶君。風邪は大丈夫なの?」
「ああ、まあ・・治った」
「そう。良かった」
コンビニの袋片手に、アコは安心したように笑う。
二人の様子を眺めていた黒木たちは、相変わらずイヤラシイ顔をしている。
「じゃ、俺たち帰るわ」
「え?もしかして私、邪魔しちゃった?」
「そんなこと無いっすよ。俺ら、部活の用事で来ただけだし。なあ黒木?」
「おお」
わざとらしい会話をして、黒木たちは頷きあう。
「でも、見舞いの品があるからさー・・トガ、ちょっと来いよ」
「は?あんだよ」
黒木はソンソンの袋を十文字から受け取ると、戸叶を引っ張りリビングへ向かった。
「何だ何だ。もう帰れよてめー」
「コレ渡したら帰るっちゅうの。良いか?お前は今から勇者だ」
「は?」
戸叶はあからさまに眉をひそめる。ジュースや菓子の入った袋の中から小さな紙袋を取り出すと、黒木は恭しくそれを差し出した。
「もうそろそろ旅立つ時じゃねえかなって、十文字と相談したんだけどよー・・早速役に立ちそうで、良かったわ」
意外と軽いそれを訝しげに眺め、ゴソゴソと袋を開ける。出てきた小箱を確認すると、戸叶の顔が引きつった。
「テメっ・・何のつもりだコレ」
「だってよ、クリスマスボウルは生まれてくる子供のために戦いますなんて言われたら、俺ら立ち直れねーもん。そんなトガちゃん見たくねえよ」
そう言って、黒木はゲラゲラと笑う。渡された物は、見慣れないながらもコンドームだと分かった。
そこに込められているメッセージは明白である。
「一足先に旅立ってくれよ!今やトガは俺らの希望だぜ?」
「ふざけ・・っておい!」
「さーて、帰んぞ十文字ィ」
戸叶の言葉を遮り、見舞いの品を床に置くと、黒木はさっさと玄関に向かう。
文句を言おうとした戸叶だったが、十文字とともにこちらを見ているアコと目が合うと、気まずくて何も言えなくなってしまった。
「じゃあな、お大事に」
「明日は遅刻せずに来いよ。先輩も、またそのうち」
ヨコシマな期待の込められた表情で、十文字たちは型どおりの別れの言葉を述べる。
「うん。またね」
アコはそんなことにも気付かずに、にこにこ笑いながら手を振った。
その背後で、戸叶は悪友に向け中指を立てる。肩をすくめながら後ろ手にドアを閉める十文字が見えなくなると同時に、戸叶は忌々しげに鍵をロックしチェーンまでかけた。
「やっとうるせえのがいなくなったな」
「友達に向かってそんな言い方・・」
不機嫌な戸叶の様子に、アコは苦笑する。
「上がれば?」
「あ、うん。お邪魔します」
こげ茶色のローファーを脱ぎ、そそくさと家に上がる。脱いだ靴をきちんと揃えると、彼女は戸叶の顔をまじまじと見上げ、「元気そうで良かった」と笑った。
「はい。これ、頼まれた物ね」
戸叶の部屋に案内されるなり、アコは手に持っていたコンビニの袋を差し出した。畳の上に散乱している漫画本を片付けていた戸叶は、その声に彼女を見下ろす。
何を買ってきたのか、袋はずしりと重い。
「ジャンプにお茶に・・こりゃ何だ?麺?」
細長い袋を摘み上げる。赤いパッケージの隙間から、黄色い乾麺が覗いていた。
「パスタだよ。戸叶君、食べ物が欲しいとしか言ってくれなかったから、何を買おうか迷っちゃった。おかゆじゃ足りないだろうし、出来合いのお弁当とかはつまらないじゃない?お見舞いなのに。だから、すぐ作れそうなパスタにしてみたんだけど・・嫌いだった?」
ヘの字に口を結んだ戸叶を、アコはうかがうようにおずおずと見上げる。
先ほどの悪友たちの言動のせいでただでさえ動揺しているのに、不意打ちで見せられた可愛らしい態度に、彼の心臓はどきりと跳ねた。
ごまかすように視線を逸らす。
「いんや別に。こっちはソースか。道理で、すぐできそうだな」
レトルトパウチのソースを取り出し、からかうように言うと、アコは頬を染め抗議の声をあげた。
「しょうがないでしょ、料理は苦手なんだもん」
「ま、良いんじゃね?俺も早く食えるに越したこたぁねえし」
そう言って、戸叶はカカカと笑う。袋からジャンプとペットボトルを抜き取り、残りをアコに返した。
「キッチン貸してね。すぐ作ってきちゃうから」
「ああ。廊下に出て右に曲がった突き当たり、リビングと繋がってっからよ。さっき俺と黒木が入ってったドアな」
「うん、分かった」
コクンと頷き廊下に出て行くアコの背中を、黙って見送る。少し経ってから遠くのドアが閉まる音が聞こえ、ふっと肩の力を抜いた。
しかし、片付けの続きでもしようとジャンプと茶をちゃぶ台の上に置いたところで、あることを唐突に思い出す。
リビングの入り口。あそこに、あのバカ黒木が、とんでもない物を置いていかなかったか。
勢い良く顔を上げ、戸叶は一目散にリビングへ駆け出す。盛大な音を立ててドアを開けると、床に置かれたソンソンの袋を持ち上げるアコの姿が視界に飛び込んだ。
まさかあの避妊具を見られたかと、一瞬気が遠くなる。きょとんとこちらを見上げる彼女を見、次いでテーブルの上に置かれた小さな紙袋を見てとると、彼は迷わず飛び出し紙袋をジャージのポケットに仕舞いこんだ。
「どうしたの?何かあった?」
「いや、別に。その袋・・」
「床に置いてあったから、テーブルに上げようと思ったんだけど」
「そっか。あのバカが置いてったんだよ。わりいな」
どうやら見られてはいないらしい。戸叶はそっと息を吐く。なんとなく気まずくて、彼はフローリングに落ちていたアメフト誌を拾い上げると、ソファーにどさりと腰を下した。
アコはと言えば、コンビニの袋をテーブルに乗せ、何事も無かったかのようにキッチンで鍋を探している。
場所を指示しながら、戸叶はアコをぼんやりと眺めた。読むフリの雑誌も、さっぱり頭に入らない。
明るい色の髪を二つに縛り、化粧っ気の無い顔にはそばかすが初々しさを添えている。メガネに隠された瞳は、いたずらっ子のように大きく可愛らしい。
とてもそうは見えないが、一つ年上の先輩である。
学校帰りなのだろう。半袖Yシャツの背中にうっすらと浮かび上がる下着のラインに、戸叶はサングラスの奥の両目を細めた。
ポケットの中に押し込んだ避妊具の箱が、腿に当たり不快感を生む。武骨な手を這わせ角を撫で、ごくりと喉を鳴らした。
普通ではない今の状況。親しい友人でもなければ付き合ってる訳でもない、ガラの悪い男の家に見舞いのためとは言え、夜一人のこのことやってくる。
しかも目の前で料理まで作っていて、こんな自分たちの関係を指す言葉は何だ?
「できたよー」
「ん。じゃあ俺の部屋に持って行こうぜ。ここじゃ落ちつかねえ」
一緒に夕飯を食べていくつもりだというアコの分も含め、二人分のパスタを持ち、戸叶は自室に向かった。
弱に設定した扇風機を回し、ちゃぶ台に向かい合わせに座り夕飯を食べる。料理が苦手というのは本当なのだろう。出来合いのソースにもかかわらず、茹で過ぎのパスタは少し間延びした味がした。

吹き抜ける風がアコの髪を散らす。グラスには色付きのリップが。その一つ一つに気付くたびに、戸叶は彼女を意識せずにはいられない。
後片付けを終え、他愛も無いことを話したり漫画を読んだりするうちに、もう時刻は九時を迎えようとしていた。
無防備なアコを見るにつけ、クールな仮面の下で煩悩に悶々としていた戸叶は、時刻を確認して彼女に尋ねる。
「あんた、帰らなくて良いのか?一人暮らしじゃねえんだろ?」
その声に、アコははっと時計を見上げた。目を大きく広げ、あわてたように口に手を当てる。
「いけない。そろそろ帰らないと!ついつい長居しちゃった。ごめんね」
「そりゃあ構わねえけど・・なあ」
鞄を引き寄せる彼女に、戸叶は勝負をかける心持で、ポケットから出した紙袋を放り投げた。うまくキャッチし、アコは首を傾げる。
「なあに?これ」
「開けてみな」
戸叶の言葉に従い紙袋から小箱を取り出すと、不思議そうにパッケージを眺める。その裏面に書かれた説明を読んだところで、彼女の顔は一気に赤くなった。
「こっ、これって・・」
「ゴムだな。さっき黒木たちが置いてった。そろそろ必要なんじゃねえの?だってよ」
言いながら戸叶が小箱を取り上げると、指先の触れた瞬間、アコはあからさまに手を離した。真っ赤に紅葉を散らした顔は、恥ずかしさといたたまれなさに引きつっている。
その反応に、伝染するような恥ずかしさと幾ばくかのサディスト的悦びを感じ、戸叶はクっと喉を鳴らす。
「でっ、でも。私たちって・・」
「ああ。付き合っちゃいねえな」
「と、友達でしょ?」
助けを求めるように、アコは戸叶を見上げる。しかし彼は、肯定してやることもせずに眉をひそめた。
「友達かぁ?ジャンプの貸し借り以外、ほとんど会わねえじゃねえか。こんなの、ただの契約と違いねえよ」
冷たい言葉に、アコは少なからずショックを受けたようだ。
「それなのにアンタは見舞いだっつって、男の部屋にのこのこ一人でやってきてよ。しかも夜だぞ?俺たちの関係って何なんだ?」
「私は・・・友達だと思ってたんだけど」
泣きそうな顔をして、彼女はうつむく。白いはずの耳が、朱に染まっていた。
「迷惑だったなら、もう家には来ないよ。戸叶君の厚意に甘えっぱなしだったから、ほんのお礼のつもりだったんだ。ごめんね。漫画も、もう貸してくれなくて平気だから・・」
「は?ちげえよ。だから・・」
アコの言葉を低い声で遮ると、戸叶は手の中の小箱を開封する。避妊具を一つ取り出し、表情を固まらせてしまった彼女を鋭い視線で見据えた。
「契約も友達も一足跳びに飛び越えて、こういうのを使う関係になりたいっつったら、あんたどうする?」
畳に小箱を落とし、アコの右腕を掴む。
「『あんたと付き合いたい。好きなんだ。帰らないでくれ』っつったら、あんたどうするよ」
サングラス越しでも伝わる、真剣な眼差し。耐え切れず、彼女は痛みすら感じるほど強く掴まれた右腕に視線を落とした。
「・・・私はきっと、『帰らない』って言うと思う」
小さな呟きは、それでもしっかりと戸叶の耳に届いた。
勢い良く腕を引き、アコの体を抱き止める。
「あんたと付き合いたい。・・・好きなんだ。帰らないでくれ」
下に見える、彼女の赤い耳元で声を絞り出す。
「帰らない。・・・私も、好き」
胸ぐらに囁かれた声は、戸叶の体を熱くする。
メガネとサングラスのぶつかる、カチリという音。
初めてのキスは、蒸し暑い和室の、湿った味がした。

ポツリポツリと降り出した雨は、あっという間に豪雨に。雷鳴さえも伴って、昼間の空気を押し流す。
ムッと湿度の上がった部屋で、戸叶はアコを組み敷いていた。
薄汚れた布団に横たわる体のあまりの細さに、息を飲む。しなやかなふくらはぎは、鍛えられた彼の腕より細いだろう。
恥ずかしそうに伏せられたアコの両目が、戸叶の顔をちらりとうかがう。高鳴る心臓に従うように、彼は再び彼女の唇にかみついた。
しつこいくらいに舌を絡める。怯えるように逃げるアコの舌を追い、奥へ。ざらついた表面でぬるついた口内を味わうと、ゆっくり顔を上げる。
立ち込める熱気に曇るレンズがもどかしい。戸叶はサングラスを外すと、アコのメガネも剥ぎ取り布団の脇に置いた。
「あっ・・」
「邪魔だろ」
遮るものを全て無くした彼女の瞳は、涙に潤って美しい。少し充血しているのは、興奮からなのか息苦しさからなのか。
戸叶のメガネは伊達だが、アコは軽度の近視である。不鮮明な視界に、不安げに目を細めた。
「見えない・・」
「近付きゃ見えるな」
吐息さえも感じられる距離に、顔を近付ける。自らの行動に照れているのか、戸叶の頬もかすかに染まっていた。
そんな彼を見上げ、アコは肩の力を抜きクスリと笑った。
「・・・一応聞くけど、あんた、こういうことすんのは初めて・・だよな」
ぎこちない手付きで彼女の制服のリボンを解きながら、戸叶は小さく尋ねる。
「うん。恥ずかしい話だけどね」
「別に、恥ずかしくはねえだろ」
Yシャツの前ボタンを外し、くつろげる。脱がし易いように上体を起こすと、アコは反対に聞き返した。
「戸叶君は?」
シャツの袖が細腕をするりと抜け、ピンク色に染まる上半身が露になる。
「そりゃあんた、都合の良いようにお考え下さいってやつだ」
唾を飲みこみながら、現われた鎖骨にゆっくり口付ける。本とAVと猥談から学習しただけの行為だったが、それを正直に言うのは戸叶の男としてのプライドが許さなかった。
アコはピクリと身を震わす。彼の言葉をどう解釈したのかは知れないが、黙ってされるままである。
首筋にキスをしながら彼女の背中に手を伸ばす。白いブラジャーのホックを素早く外すと、小振りだが形の良い胸が姿を現した。
「・・・電気、消しちゃだめ?」
恥ずかしそうに両手で体を隠し、アコは戸叶を見上げる。普段なら可愛らしい仕草も、この状況では妖艶でさえある。
早鐘を打つ胸を意識しながら、戸叶は立ち上がり蛍光灯の紐を引いた。
途端に暗くなる室内。彼は自らもTシャツを脱ぎ、上半身裸になる。
雷光に映し出されるアコを抱くと、その体を再び布団に押し付けた。
「めちゃくちゃ興奮すんな」
素直に白状すれば、彼女は困ったように「ばか」と返す。
壊れ物でも扱うようにくびれた腰を撫でると、くすぐったそうに身じろぎした。
柔らかく弾力のある胸に手を伸ばす。肌理細かい皮膚は、ゴツゴツした指に吸い付いて心地良い。
どんな反応なのか顔を見ると、視線を彷徨わせ、迷子のような不安げな表情をしている。
それでも名を呼べば、縋るように戸叶を見上げてくる。不鮮明な視界が、羞恥心を和らげるのに一役買っているらしい。
触れるだけのキスをして、乳頭に吸い付く。
「あっ」
彼女の体はしなやかに跳ね、逃げ出すようにうねる。
足を絡めて押さえつけると、もう片方の胸を手で揉み上げ、空いた方の右手で浮き上がる腰をゆっくりさすった。
「いたっ」
アコが苦痛の声をあげる。欲望のままに乳頭を指で押し潰したことが、彼女に痛みを与えてしまったらしい。
「わりぃ・・」
小さく謝り、かわりに表面を掠るように軽く撫でる。胸を柔らかく揉みながら、ザラつく舌で真っ赤な乳首を労わるように舐めた。
これには彼女も快感を感じたらしく、戸叶の頭上でかすかな喘ぎ声が聞こえる。
彼は興奮で息が上がっていた。初めて味わうアコは、体も声も甘い。
ヘソを舐め、スカートのホックに手をかける。少し手間取りながらそれを外すと、彼女の腰を持ち上げそっと抜き取った。
今やアコの体を隠す物は、頼りない薄布と、紺色のハイソックスだけである。
彼女の顔は恥ずかしそうに赤くなり、暗闇にぼんやり浮かぶ戸叶の姿を涙目で見上げていた。
靴下さえも脱がし、膝頭にキスをする。
腿、腰骨、腹、胸。首筋、二の腕、指先までにキスをすると、彼はアコの髪を掻き乱すように手で支え、濡れた唇に吸い付いた。
そのまま、立てられた彼女の膝に、興奮しきった股間を押し付ける。
ジャージ越しでも分かる硬さに目を見開いた彼女は、口付ける戸叶の両目が自分を見つめていることに気付き、射竦められたように動けない。
獣の双眸で舌を絡めてくる彼に、翻弄される。
とうとう最後の薄布まで取り去られるが、恥ずかしくても呻き声しかあげられない。
そんな状況が、二人の性欲を煽った。
「はっ・・・」
息をつき、戸叶の唇が離れていく。腿を這い上がる大きな手が、アコの股間を撫でる。
「やっ、やだ」
「今さら」
「やあっ・・あっ・・」
薄く生えた陰毛を分けて、割れ目に指を忍ばせる。
羞恥に震えながらも、アコはかなり興奮していたのだろう。そこは、くちゅりと濡れていた。
首筋に舌を這わせ、左手で胸を愛撫し、もう片方で性器をいじる。上の方の突起をぬるぬると擦ってやると、彼女の体は大きく跳ねた。
食いしばった口から、呻き声のような喘ぎが漏れる。動きを繰り返すにつれて滑りは良くなり、勢いに任せて小さな膣口に指を一本突き入れた。
「きつ・・」
「あっは・・んんっ」
未開のそこは、指一本でもあまりにきつい。痛みは無いのだろうが、見下ろしたアコの顔は苦しげに歪んでいる。
このまま戸叶の性器など押し込めば、苦痛しか与えられないのは明白である。
なんとか入り口を広げようと、根元まで入った中指を抜き差しし、折り曲げ、揺さぶる。
その動きに合わせ親指で突起を擦ると、彼女の口から押さえきれない喘ぎ声が漏れた。
やはり膣内よりも、こちらのほうが感じるらしい。
細い肩を抱きすくめ、彼女の髪に顔を埋める。
突起からの快感が、体の緊張を解したのだろう。締め付けが緩み始めたのを良いことに、性器をいじる指を傍若無人に動かす。
痛みは与えないよう気遣いながらも、激しい欲望を抑えきれない動き。耳元に聞こえるアコの喘ぎは段々と大きくなり、投げ出されていた腕が彼の背中にしがみ付く。
「あっう、とがの・・んっ・・」
そうして彼女は、両脚をぴんとつっぱり、声もあげられずに果てた。痙攣する体内は、戸叶の指を断続的に締め付ける。
その動きと艶やかな姿に息を飲むと、彼は指を引きずり出し、力の抜けた彼女の上からゆっくり身を起こした。
畳に転がっていた避妊具を手に取り、場違いなことに浮かんできた黒木と十文字のいやらしい笑顔を、振り切るように封を切る。
旅立ってやろうじゃないか。
トランクスごとジャージをずり下げると、既に膨張しきった性器が飛び出した。不慣れな手付きで避妊具を被せ、慣らすように数度扱く。
呆然と横になったアコの脚の間に陣取り、その体に覆い被さる。
「戸叶・・君?」
「力抜いてな」
虚ろな瞳に笑いかけると、片手で支えた性器を彼女の膣口に押し当てた。
「あっ」
我が身に起こっていることに気付いたのだろう。アコはか細い声をあげる。
緊張させる暇も与えないよう、戸叶は腰と手に力を加える。入り口で抵抗を受けた亀頭は、一番太いところを通ると、後は反動をつけたように一気にググッと突き進んだ。
「いやぁっ!」
無理やり押し込まれた彼の性器に、アコは体を裂かれるような激痛を感じ悲鳴をあげる。
全身が緊張し、冷や汗を浮かべ、涙さえ流している。
戸叶は彼女の体を抱きこみ、労わるように撫でさすった。
「わりい・・力抜いてくれ。このままじゃ入れねえんだ」
初めて女の体に入り込んだ性器は、恥ずかしいかな、麻痺したように熱い。半ばまででも痛いほどに締め付けられ、気を抜けばすぐに達してしまいそうだ。
耳元で囁き、深呼吸を促す。
彼女も痛みを感じながらも、一つに繋がりたい気持ちは同じである。ゆっくり息を吐き出し、合わせて入り込んでくる戸叶を締め付けないよう努力する。
太い腰がしなやかな腰に重なると、彼は額の汗を拭い、彼女の震える唇にキスをした。
アコの両目がうっすら開く。
「全部入ったから・・」
低く掠れた声で告げる。全身の感覚がそこに集中したようで、戸叶は今にも達しそうなのを必死に堪えた。
割り開かれた体内は、相変わらずの鈍痛を訴える。それでもゴム一枚越しに伝わる体温は熱く、アコはその距離感が堪らなく嬉しかった。
「動いて良いよ」
「・・・わり」
まだ痛みが引かないことは分かっている。けれども心で認識しても、体は欲望をぶつけるために走り出してしまう。
アコの腕を背に回させ、悲鳴交じりの喘ぎ声を聞きながら、出来る限りの思い遣りをこめ揺すり上げる。
初めての体験では長くは耐えられず、間も無く戸叶は一人果てた。

「よーよートガ!どうだったよこのスケベ!」
朝練前のロッカールーム。戸叶の顔を見るなり、ニヤケ顔の黒木は鞄を放り投げ近付いてきた。
この質問を予想していた戸叶は、ふと今朝の光景を思い出す。
アコが目を覚ますより前に彼女をタオルケットに寝かせ、色々と汚してしまったシーツを洗濯した。起きた彼女は朝飯を食べると(またパスタだ)、部活のある戸叶と共に家を出た。
「まあ、俺は魔王の城で待ってっからよ。お前も早く旅立て」
そう言って、余裕の笑みを見せてやる。
「マジで!?んだよトガ、マジでやったの?ずりーよ!ちっくしょー!」
「カッカッカ」
羨望の眼差しに、少しばかり好い気になる。
けれども彼はまだ知らない。アコが外泊先を、まもりの家だと親に説明したこと。口裏合わせに連絡を受けたまもりから、この情報が泥門の魔王に伝わってしまったことを。
シャシンに次ぐ新たな弱点が、脅迫手帳に書き込まれたのを彼はまだ知らない。

 



 
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