廊下にスリッパを踏み鳴らすパタパタと言う音を響かせながら、若菜はロビーに向かっていた。
 入浴はすませたが、時計はまだ九時をさしていた。窓の外は濃紺で、夏とはいえ夜と呼べる時刻である事は間違いないが、それでも眠るには少し早い。かといって、一人しかいない部屋で百円払ってTVを見るというのもかなり躊躇われた。
 曲がる必要の無い真直ぐな廊下に終わりが見えてきた頃、来客用に開け放たれたそこから響く談笑を若菜の耳は捕らえ、若菜はほう、と胸を撫で下ろした。
 「あ、若菜ちゃん」
 「あ、桜庭先輩」
 廊下から若菜がそっと顔を出すと、すぐその存在に気付いた桜庭が声をかけてきた。スラリ、とした長身に端整な顔立ち。芸能活動が出来るほどに恵まれた容貌を持つ彼は、今ここに集まっている部員たちがみなそうである様に、ホテルの浴衣を着ていた。サイズが合っていないのだろう、いささか袖が短かった。
 多分に、この姿をおさめた写真があれば買い求めようとする少女が幾千もいるのだろうが、本人にはそんな自覚はまるで無いらしく、ごく自然な所作で部員たちの中に溶け込んでいた。
 桜庭の声に若菜の存在に気付き、談笑をやめ振り返る顔が二つ三つ。お、と笑って声をかけてきた。
 「若菜! 風呂はどうだった?」
 「良かったですよ〜。すぐ側をリスが走ってて」
 「へぇ、そういうのは俺たちのほうにはなかったな」
 「そりゃあ人数が多いですもん」
 「トランプやるかい?」
 「ごめんなさい、遠慮しておきます」
 「若菜ちゃん浴衣にあうね〜」
 「やめてくださいよぉ〜」
 部員たちの他愛無い言葉に笑って応じる若菜だったが、その実目線はある一人を探していた。
 …可笑しいな、いない……?
 きっと彼も、ここでみなと共にいるのだと思っていたのに、(話しているかは別として)何故だろう、彼の姿が見当たらない。
 そんな若菜の当惑した表情にいち早く気付いたのか、桜庭がこそりと若菜に耳打ちした。
 (……進なら外。 涼みにいってくるって)
 「! ――ありがとうございます、桜庭先輩!」
 聞くや否や、若菜はタッとロビーから立ち去っていく。長い髪と浴衣の裾が、その勢いにはらりと舞った。
 (わっかりやすい子だなぁ……)
 その後姿を見送りながら、桜庭はクスリ、と微笑んだ。
 
 外に出ると、その姿は一目見てわかった。
 ホテルの裏手、ホテルから大分離れた処に進は佇んでいた。
 腕を組み、背筋を地面から垂直に真直ぐ伸ばししたその後姿は、それだけでも良くわかるほどに、白地に青の縫い取りの浴衣が映えていた。とても似合う。
 「進先輩!」
 若菜は大声で叫ぶと、進に走り寄っていった。その声に然したる驚いた風もなく進はゆっくりと振り向く。……が、駆け寄ってきた若菜の姿が目の前に来ると、進は僅かに困惑した様相を見せ、一瞬の間を置いて口を開いた。
 「……若菜、か?」
 その声にああ、と頷くと若菜は手で髪を一つに束ねて見せた。見せ付けるように首をかしげてから、若菜ですよぉと言って笑んだ。
 「……すまん」
 「今まで髪下ろしたところ、見せてませんもんね。……どっちが、似合ってると思います?」
 そう言いながら手を離す。束ねられた髪は一瞬にして先のようにおろされた。
 若菜の問いに進は暫く逡巡し――
 やや、か細い声で答えた。
 「……両方、だな」
 「それ、答えになってませんよぉ」
 途端に口元を押さえて若菜はくすくすと笑い出す。仕方ないだろう、本当にそう思うのだから。
 と、表情こそ変わらないがどこかしら不服そうに進が答えると、そうですね、と言って、若菜は口元を押さえる手を離した。そのままゆっくりと、顔を動かし進を見上げた。目が合った。
 「ごめんなさい。……ありがとうございます、先輩」
 そう言うと、照れたのか恥ずかしそうに俯き、若菜は顔に浮かぶ笑みを深くした。
 ……いや、実際は変わっていない。深くなど、なってはいない。
 だが、不思議と、進にはそう見えた。
 前よりも今よりも、目の前の若菜がより、幸福そうに微笑んでいるように見えたのだった。
 「そういえば」
 ふと、思い出したように若菜が切り出す。何だ、と進が応じた。
 「進先輩、何でここに立ってたんですか?」
 いや、立ってるんですか?ですね。 言い終えるとそう訂正し、若菜は進を見た。若菜の言うとおり、進は、若菜が来てからも来る前も、腕を組んだまま今この場所を微動だにしていなかった。
 その問いにああ、と進は上を向いた。つられて、若菜も上を向く。
 「あっ……!」
 その瞬間、感嘆に震える声が若菜の口から漏れた。
 「涼むついでに、星を見ていた。山の夜空は美しいからな」
 進の言葉の通りだった。見上げた夜空は例えようもないほど美しく、瞳を眩ませるほどの沢山の星々が散らばって瞬いていた。
 とても地元では、見られない夜空だろう。
 この富士山の麓、多くの自然が残り、汚されていない、ここだからこそ見える風景だった。
 「凄い……! 凄いですね! 先輩!」
 感動に震えていたのもどれ程か。
 夜空を埋め尽くすその存在に気付いた途端、若菜は進の腕を掴み、興奮してその腕を引っ張った。
 そんな若菜の余りの驚愕振りに、進は一瞬、口の端を僅かに上げて可笑しそうに微笑んだが、夜空に見惚れていた若菜は、その事に気付かなかった。
 「……ああ」
 
 それから暫くの間、興奮する若菜に問われ、進は星座の名を教えていった。
 あれがカシオペア、あれが双子、あれが羆――指し示すついでに知っている星座に限りその所以も進は語った。立っているうちに疲れてきたのでその場に座った。若菜は、余り星座について知らなかったらしく、一つ語るたびに一つ聞いてくるので珍しく進も饒舌になっていた。
 おそらくこの様子をチームメイトが見たら、会話の種になっていただろうほどに。
 悪くない時間だった。一つ語るごとに隣に座る若菜が微笑む。視界の端に写るその横顔。軽く寄りかかられた肩から伝わってくる重みまでもが心地いい。
 ふと進は思った。滑稽な事だとは思ったが、それでも。
 (このまま夜をすごす事が出来たら……悪くは無いだろうな)
 進は、若菜の体をそっと抱き寄せてみた。「!」驚いたのか若菜の体が微かに強張ったが抵抗しているわけではない。
 そのまま若菜の上体を捻り、向かい合う形にして抱きしめた。
 「し、進先輩……っ!?」
 跳ね上がった心臓の音が聞こえる。若菜のものだろうか自分のものだろうか。どちらにしろ、わからないのだから考えたても仕方がないのだけれど。
 甘いにおいがする。一瞬何だと思ったが直ぐに解かった。洗髪料だった。もう大分乾いている髪の、それでも僅かに残った匂いだった。隣にいるだけでは気付かない、抱き寄せて初めてわかる、微々たるもの。
 ……心地よかった。
 髪を梳いてみる。あやすように、愛しむように。さらさらと音を立てながら若菜の髪は進の掌を攫い、桜色に色づいた項が隙間から覗いた。
 咽喉の奥が熱くなるのがわかる。触れたい。無性にそう思った。
 「……若菜」
 「! んっ……」
 進は若菜の顔をそっと起こすとゆっくり、唇を重ねた。舌先で歯茎を舐るとその体が微かに震えた。甘く苦しげな吐息が隙間から漏れる。
 進が若菜と唇を重ねるのはこれが初めてではない。だが、この口付けは普段と為す意味が違うものだとは互いに気付いていた。
 「今夜――…」
 やがて唇を離すと、進はその唇を若菜の耳元へ運んで尋ねた。
 ――――部屋に、いってもいいか――――
 若菜がその問いの意味を解せないほど幼い筈はなく、一瞬の間の後、若菜はこくりと頷いた。
 
 真夜中の十二時。進は同室の三人(高見・桜庭・大田原)を起こさないよう、そっと体を起こした。
 三人が、眠っているかを確かめる。大音量のいびきをかいている大田原はもとより、高見も桜庭も両の目を閉ざしており、進が体を起こした事にも気付いていないようだ。
 (これなら、大丈夫だな……)
 小さく、安堵の溜め息を漏らす。同室の三人とは学年も同じであり親しい仲だったが、それでもこれから彼女の部屋に忍んでいくのを知られるのは憚られた。自分はともかく、合宿中に男を部屋に招き入れるなど、彼女にとって、良い事の筈がないのだ。
 最も、そう考えたところで抑えられないものが出来てしまったわけだが。
 悟られぬよう、進は細心の注意を払いながら、気配を殺して立ち上がった。動く際に起こる、僅かばかりの衣擦れの音も出来る限り抑えるようにしながら。
 あの後、ロビーに帰る傍らで、一言二言言葉を伝えた。同室の三人が寝静まったところで、おそらく12時過ぎだろう――に、部屋に行くから、戸の鍵を開けたままにして欲しい、と。
 他の部員たちが四、五人で一部屋なのと違い、若菜の部屋は一人部屋だった(他に女子部員がいないためだ)。同時に、位置も他の部員たちからはいささか離れた所にあり、他の部員たちに気付かれぬよう忍んでいくのはそう難くないだろうと思われた。
 問題は隣が監督の部屋だという事だったが、その懸念を打ち消す言葉は進の言葉に耳の端を紅くして俯く、若菜の口から紡がれた。
 (監督は……私に朝起こしてくれって言ってましたから、起床時間より少し早く起きれば、気付かれないと思います……)
 自分が定めた起床時間を自分は守っていないのか。その事に一瞬府に落ちないものを進は感じたが、今回に限ってはありがたい事だったので余り深くは考えない事にした。
 三人の体と布団をよけて足を運び、部屋を出ようと続く襖に手をかける。音を立てぬように気をつけながら、ゆっくりと引いていった。
 ――が。
 (進〜 どこ行くの〜?)
 愉快そうに響く桜庭の声が進の耳に届いた。驚いて振り向く。最もそれで音を立ててしまうようなうかつな真似はしなかったが。
 振り向いた視線の先に、体を起こし胡坐を掻く桜庭の姿があった。
 暗がりゆえ、その表情までは見えないが笑っているのだろう。気配と雰囲気で、それ位は読み取る事ができた。
 (……起きて……いたのか?)
 数秒の間を置いて、ようやく出た声は掠れていた。
 そんな進の様相にいささか戸惑った様子で頭を掻きながら桜庭が答えた。
 (て、言うか、寝てない)
 (何……!?)
 (いつ行くのか気になっちゃってさ〜。けど、進が狸寝入り見抜けないとは驚いた。相当緊張してるんだねぇ)
 (……!)
 顔が赤くなるのが自分でも分かった。自分は、そんなに動揺していたのか。
 進はがっくりと肩を下ろし、うなだれた。
 (日頃の鍛錬が、足りないのだな……)
 (いや、そんな落ち込まれても困るから)
 桜庭は軽く苦笑すると、(それだけ若菜ちゃんが好きって事じゃん、いい事だよ)と言った。
 (……うむ)
 (あ、けど彼女の前で動揺するのはやめなよ、女の子の方が怖いんだから。ま、進なら心配ないかな)
 (……うむ)
 (じゃ、ハイこれ)
 飄々とした声音で、桜庭は進に忠告をすると、何かを進に向かって投げた。
 片手でそれを受け取る。暗がりでよく見えないが、ビニールの小さな包みのようだった。中身がわからず首をかしげると桜庭がその名を呼んだ。聞こえた単語に進が再度顔を赤くする。
 (それ渡そうと思って起きてたんだ。進持ってないでしょ? 駄目だよ〜、それじゃあ。……これからは、ね)
 (……!!)
 (じゃ……、行ってらっしゃい)
 そう言うと、桜庭はパタン、と布団に倒れた。どうやら今度こそ本当に眠る気らしい。困惑した進だったが、確かにこの包みは必要なものでありがたかった。
 恩にきる。進は内心でそう呟くと、そっと部屋を出て行った。
 
 進は若菜の部屋へと向かった。
 向かう途中、他の部員に会ったらどう言おうか、とも考えていたのだが、幸いその心配は杞憂に終わり、進は、誰と会うこともなく若菜の部屋へとつくことが出来た。
 開けておくように頼んではおいたがそれでも念のため部屋の戸を叩く。
 (……)
 返事はない。
 だが、戸のノブを引いてみると動いたので、鍵はかかっていなかった。先の言葉の通り、鍵は開けておいたようだ。進はゆっくりと戸を引いた。
 すると、部屋の中から廊下に洩れてきたのは明かりではなく陰りだった。僅かに困惑する。部屋の電気が、すでに消されているようである。
 「? 若菜?」
 暗がりの中に呼びかけてみるが、返事がない。
 目を凝らして見てみると、布団が一つ敷かれており、不自然に膨れていた。考えるでもなくそこに彼女がいることは明白である。
 ……眠って、しまったのだろうか。
 ここ五日続く合宿で彼女だって疲れていたのだろう。それは、攻められる事ではない、仕方のないことなのだが――どこかやりきれなさがこみ上げてきて、進は小さくため息をついた。
 その際、一瞬逡巡し
 (……寝顔くらい、見てもよいだろう)
 と思うと、部屋に入って電気をつけた。パッと部屋の蛍光灯がともり、一瞬暗がりに慣れた目が眩む。
 その時だった。
 (――きゃっ)
 「!」
 それはどこかくぐもったような、だが、間違いなく人の声――、が部屋の奥から進の耳に届いた。
 無論、それは――
 「 若菜?」
 (…あ、あの先輩…、……電気……消して下さい…)
 「!」
 ぼそぼそと、か細く続くその声の方を見れば、若菜が布団の中から顔だけを覗かせていた。その声の響きに、彼女の懸念に気付き、進は慌てて電気を消した。
 途端、部屋の中が再度暗がりに包まれる。
 「…ノック、聞こえてたんですけど……なんか、恥ずかしくなっちゃって……」
 起き上がって布団の上に正座した若菜は、そこまで言うと言葉を切り、答えなくてごめんなさい、と言ってうつむいた。
 「いや……俺の方こそ、配慮が足りなかったな。…すまん」
 詫びる若菜に自分も謝ると、進はその脇に座った。暗がりでその顔ははっきりとは見えないが、それでも気配でその瞳と表情はわかる。
 桜庭の言葉が思い出された。
 (――彼女の前で動揺するのはやめなよ、女の子の方が怖いんだから――)
 「……若菜」
 「! ハ、ハイ! 何です……、――っ!?」
 進は名を呼ぶと同時に素早くその体を抱き寄せた。
 若菜の顔が赤く――なっているのだ、と思う。暗がりの中、そこまでは見えない。また、明るかったとしても、その顔は自分の体に押し付けているので見えないだろう。
 進の腕の中で若菜の体は強張り、呼吸は一瞬とまってから吐き出される。
 (落ち着け……)
 自分も一瞬息が止まりそうになるのを進はどうにか抑え、言葉を紡いだ。
 ――この状況は誰が呼んだ? 紛れも無い自分だ。
 動揺を表に出さず、彼女の安堵が誘えるように。
 「若菜、俺は……」
 「!」
 出せた声は、普段の自分と変わっていなかった、と思う。
 耳元で囁かれた言葉に若菜の体は普段以上に大きく震え、緊張の露になった声を震わせながらな、何ですか……?と返してきた。蝶の羽音のようにか細かったその声が、それでも進の耳に届いたのは、抱き寄せている。この距離があるからに他ならない。動揺を表に出さないように理性を総動員し、急いで進は言葉の続きを紡ぐ。
 「俺は……、こういうことの勝手が分からない……だから……」
 進のその声は、声こそ平生のままだったが、言いよどむ事等はありえない事だった。だが進は焦りと混乱にその事までは気付かず、自分が平生と変わらないでいると錯覚していた。
 「……だが…、俺は……」
 「……先輩」
 そうして言いよどんでいる進の語尾を、若菜が攫った。
 背中に回された進の腕を払い(というより元から余り力が入っていなかった)自由になった腕で若菜はそっ、と進の頬を掴んで引き寄せた。
 そしてそのまま、唇が重ねられた。
 「!」
 予期せぬ若菜の行為に、瞼を伏せることも叶わず進は固まっていた。視界を覆いつくす若菜の顔の、その両の瞳はしっかりと閉じられている。
 暫くして唇を離すと、若菜は自身のした事に(今更ながら)照れたのか、殆ど同時に俯いてしまう。
 だが、俯いたその唇から漏れた言葉はか細く――恥じらいを含んでいる中でハッキリと進へと向けられていた。
 「私……、先輩の今の言葉で…十分です……」
 「……!」
 「…ええと、だから……」
 そこまで言って若菜は言葉を濁し、お願いします、じゃ変ですね。と言って苦笑した。
 「……いや」
 「!」
 「俺のほうこそ……、だな」
 そう言ってその失笑を否定し、進は若菜の額に軽く口付けると、その体を押し倒して今度は唇に口付けた。
 暫くして唇が離されると、お願いします、と言うか細い若菜の声が進の耳に届いた。
 それを合図に進は若菜の浴衣の袂に手をかけた。下に何もつけていなかった若菜の半身はそれだけで露わになる。
 「っ……!」
 ずっと想っていた相手に自分の半身がさらされている。
 若菜は反射的に目を閉じた。だが、それが羞恥からなのか、期待からなのか。判別がつかない。
 一瞬の内に体は敏感さを増して、微かに肌を撫でる吐息にまで反応してしまう。
 進は、ゆっくりと唇を若菜の首筋へと運んだ。軽い口づけを幾つも肌へと落とし、それからそっ、と舌を這わせていく。
 「ふ……っ」
 初めての感覚に若菜の体が一瞬ビクリと強ばる。だが、それが緩むと、甘い声が唇から漏れはじめた。
 「あっ…、ぁ…んっ……」
 それを受けて進の指と唇は両胸の曲線へと降りた。まだ幼いそれを、進は丁寧に掌で愛撫し、突起を唇で吸い上げる。
 「ふぁ…あぁっ、はあぁんっ!」
 同時に、今までの比ではない感覚に若菜が大きく身を震わせた。
 「ぁ…はぁっ、…ふ、あ、あんっ!」
 背をしならせ、甘く喘ぐ。
 若菜のはじめてみるその姿態に、常には抑えられている自分の獣性が煽られていくのを進は感じた。直に触れ合う肌に、彼女の体を感じる。
 進の意図を知り若菜はぎゅっ、とその背にしがみついた。ぴたりと密着する肌に、互いの鼓動が跳ねる。そして再度、進は若菜の中に指を進めていった。
 「あ…っ、んん……っっ!」
 体制的にある程度和らいだろうとはいえ、あくまである程度、だ。若菜の顔はひきつり歪み、その痛みがいかほどかを進に伝えた。
 だが、それでも指を進め、動かす内に抵抗は緩みはじめた。奥からこぼれる愛液は指の動きを滑らかにし、痛みを快楽へと昇華させていく。
 「ん…っ!ぁ、あぁ、ひあ…っ!――んあ、ぁんっ」
 絶えず漏れる声に混じり、微かに粘膜の擦れる音がした。溢れた愛液は若菜の腿を伝って落ちていく。
 同時に若菜は進にしがみつく腕の力を強くし、その耳元で喘ぎ続ける。
 「ふ、ぁ……あっ、あんんっ……!!」
 その姿勢が、体が跳ねる度直接触れる唇と、耳朶への吐息を進に与えている事に若菜は気付いていないらしい。いつまでも密着する肌に、尋常ではない気を覚えるのは、むしろ進の方だ。進はいささかためらったが、それでも限界を感じつつあったので小さく彼女に囁いた。
 「すまん…いいか?若菜」
 その言葉が一瞬何の事かわからず戸惑う若菜だったが、自分に押し当てられる感触に気づき、意図を悟る。
 「ぁ…っ。……はい」
 今更だが恥ずかしくなって頬が赤くなった。
 進はそれを聞くと密着していた体をはなし布団に寝かせた。
 そしてその時、行為が始まってから自分が彼女の顔を見る余裕がなくなっていた事に気づく。
 紅潮した頬、焦点の合っていない瞳、涎で僅かに濡れた口許、乱れた呼吸。
 それはどれも妙に艶があって、今落ち着けようとしている呼吸も、どこか卑猥なものの様に聞こえた。
 どくん、と取り出した自分が脈打ち、質量が増すのを感じる。
 ふと、若菜は進の手にあるそれがびくびくと脈打つ様に、何かの生き物のようだ、と思う。暗がりの中でも、ある程度慣れた目は、それ位の判別は出来た。
 そして――、気づいた。
 「あっ…あの、先輩っ!」
 いささか焦ったように若菜が切り出す。
 「…何だ」
 「その…っ、つ、つけて下さい……っ」
 「!」
 若菜のその言葉は、何を、が抜けていたが、だからと言って意図が分からぬ訳はない。
 (確か…この辺りに)
 布団の側に置いたはずだった。探せばそれは存外早くに見つかって、進は袋を開けて中身を取り出す。
 見るのを不味いと思ったのか若菜が顔を背けた。
 ――が。
 (これは…どうやってつけるものなんだ?)
 手にした避妊具を前に、進は考えてしまう。
 何しろ、初めて見るものだから意図以外、勝手が分からない。他の同年代の男子と違い、雑誌などでそうした知識を得たことも無い進にとって、それは、未知の物体とでも言うものだった。
 袋を見れば使い方は書いてあったのだが電灯のない室内、そんな文字の判読など出来る筈もなく、また、その事も知らないから電灯をつけることもない。
 (一体、どう――)
 「あ、あの、先輩?」
 「!」
 進の様子がおかしい事に気づいたのか、若菜が体を起こした。だがどうやら、進の様子から直ぐにその理由に気づいたらしい。はっ、とした様子で俯いてしまう。
 ある意味珍妙な、だが、この二人にはぴったりのような――何とも言い難い空気が幾ばくか流れ
 ――ややあって、若菜が切り出した。
 「…せ、先輩。私、つけましょうか……?」
 「!? な……」
 「ぁっ…ま、前に……雑誌で…見た、事、があって……あ、その…と、友達に見せられたん…、です、け…ど……」
 よほど恥ずかしいのだろう。最後の方はぼそぼそとくぐもった声になっていた。
 なんと答えていいか分からず進が沈黙すると、それに耐えられなくなったのか若菜が進の手の避妊具に手を伸ばす。
 「あ、あの、じゃあ…つけますね!」
 「!」
 もともとさして力を入れて持っていたわけでは無いのでそれは即座に若菜の手に落ちる。
 といっても、若菜自身実際使うのは初めてなのだろう。一瞬、戸惑い――だが、前見たという知識を思い出したのか、確認するように何かうなづきがら進に避妊具を近づけた。
 若菜の指が、避妊具越しとはいえ進自身に触れる。
 「…っ……!」
 「……う、動かないで、下さいね」
 動く事なんて、出来る筈がない。
 ともすればそのまま果ててしまうる、自身を抑えるのに精一杯だ。
 「んっ、と……」
 自身の前に身をかがませる若菜を見下ろしながら、進はたった数秒のことが数時間のように感じられた。
 (…こうした知識も…多少は……学んでおくんだったな……)
 「あ…お、終わり、まし、た……」
 そう言うと、若菜は進から手を離した。確かに、避妊具はしっかりと着けられている。
 (…成る程。こうしてつけるものなのか)
 「多分…それで大丈夫だと、思うんですけど……」
 ぽつぽつと話す若菜の前で、進は思わず見入ってしまう。
 答えない進に若菜が尋ねた。
 「あの…だ、大丈夫ですか……?」
 「! …ああ」
 その声にようやく気づき、進がうなづくと若菜がほぅ、とため息をついた。それを見、進がすまん、と呟く。
 「? えっ…」
 「…若菜と付き合うようになって大分たつというのに……こうした知識を、俺はまるで仕入れていなかった」
 そして再度すまん、と繰り返した。
 進のその態度に、若菜は一瞬惚けたように目を見開く。だか、次の瞬間にはくすり、と笑っていた。
 「…その方が、先輩らしいですよ」
 「む……」
 「…私……」
 そこで、若菜は何かを噛みしめるように言葉をきった。俯いたその顔を長い髪が覆う。表情がよく見えない。
 (? …何を言おうとしているんだ?)
 黙る若菜の真意がはかれずつられる形で進も押し黙った。
 数秒の沈黙、若菜が一つ深く息を吸って、顔をあげた。
 隠れていた表情が露わになる。やや、ぎこちなく、だが微笑んだその顔は、戸惑いと緊張からだろう、頬が、熱を帯びて赤い。
 目が、あった。
 「私……先輩が初めてで良かったです」
 「!」
 「! …あっ……!」
 瞬間、進は衝動に任せて若菜を押し倒していた。
 息つく間も与えず唇を奪う。
 舌を絡ませ咥内を蹂躙する。
 愛しさがこみあげてきて抑えが効かない。
 「ん…!は、あ…っ、せん、ぱぃ……っ!」
 唇が僅かに離れる間を縫って若菜が進を呼んだ。だが進は辞めずに咥内を犯し続ける。
 「ん…、んん……っ!」
 息が出来ない、苦しくて意識が霞む。
 だが、若菜は――それでも体の奥で今までの比ではない、今までのものとは異なる――何か、を感じていた。
 何か、何かが足りない――何かが、欲しい――
 (!)
 その時、若菜の体の中に何かが押し当てられた。それは痛みを伴って若菜の中へ入ってこようとする。
 (痛っ……!)
 それが何かは既に知っている。若菜は先の様に進の背中に腕を回した。
 ぴたりと密着した体――耳元で囁かれたのは、今まで聞いた事のない、冷静さをかいた進の低い声。
 「…悪い、もう抑えがきかん……」
 その言葉に若菜は思わず苦笑する。
 この、いささか変わっていて不器用で。
 だけど、自分の事を誰よりも大切にしてくれて――
 答えなんて、決まっている。
 「…きて下さい……先輩」
 進が、若菜の片膝を持ち上げた。多少でも楽になるように、とし――ゆっくりと自身を進めていく。
 そこは、先に指で十分に慣らしたとは言え、指と男根では当たり前だが勝手が違う。
 若菜の秘部は再度抵抗を見せ――やがて膜に突き当たると、若菜の顔が苦しげに歪んだ。
 「……!!」
 息もつけない痛みとは、この事を言うのだろう。進の背に回した腕に力が籠もり、爪がその背を掻く。
 若菜は全身を引き裂く様な痛みを、目を閉じ歯を食いしばって耐えた。
 腿に愛液に混じって血が伝う。
 全てが終わった時、若菜の瞳からは一筋の涙が伝いおちていた。
 進はその涙を舌で舐めとりながら瞼に唇を運んだ。優しく触れるそれに瞼が弛緩する。
 「ん…っ」
 「っ、若菜……息を吐け…」
 「…っ、…は……っ」
 痛みを堪える際に止めていた息を、進の言葉に従って若菜は吐き出す。何度か繰り返す内に、若菜は僅かに、だが確実に痛みがひいていくのを感じた。
 「っ、もう…、大丈夫です、先輩」
 「…そうか。なら……動いていいか?」
 「…はい」
 頷く若菜に、進は輸送を開始する。
 若菜の体がビクンと震えたが、それは先の痛みからくるものとは違い単なる圧迫感からのものだ。
 先に指で慣らした所為でもあるのだろう、一度落ち着けば若菜の体は抵抗を止めていた。
 進に合わせて律動し、吸いついて、互いを絶頂へと誘う。
 元々さして余裕のなかった進は、それだけで限界を感じた。
 二三度腰を動かし――だがそれだけだった。
 「…若、菜っ……!」
 進は彼女の名を呼ぶと、最奥へと突き上げ、果てる。
 同時に、瞬間膨張したそれに快楽を得、若菜も達した。
 「――!!! んあっ、あっひあ、ああんっっ!!」
 
 行為が終わり、恥ずかしいのか背を向ける若菜を進は引き寄せた。手に馴染む、肌の感触が心地良い。
 難色を示し、若菜が体を離そうとする。
 「ヤだ…、汗くさいですよぉ」
 「…構わん」
 だが進は有無を言わせずその体を抱き締める。
 「下らんことを気にするな」
 若菜は戸惑ったようだったが――結局承諾したのか、緊張を解いて体を進に預ける。
 「…おやすみなさい、先輩……」
 腕の中で囁かれた言葉はごく当たり前の言葉だったけれど。
 「……ああ」
 満足げに微笑んで、進は共にまどろみにおちていった――。

 



 
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