「キャプテン、オツカレさまデース」
「私タチお先にシツレイシマース」
「うん、お疲れ様! また明日練習だからね!」
ハーイ、と頭を下げるアメリカ娘達に、鈴音はぶんぶん手を振った。
外は夕暮れ。新しいチアの振りを練習している内に、いつの間にかたっぷり遅くなってしまった。
もうグラウンドには誰もいない──皆上がっちゃったかな?
「あの馬鹿兄貴、アタシ置いて帰ったなー」
妹を残して行くなんて!
ちぇ、と肩をすくめ、そのまま部室に滑り出す。一日の汗だの埃だの、せっかくあつらえたユニフォームもどろどろだ。
人影の絶えた敷地内に、インラインのローラー音が響き渡った。

「や──っ、つっかれたぁ!」
ジャッ!と急停止、砂埃を巻き上げながら部室に駆け込んだ。
やっぱり皆帰ったらしく、明かりの落ちた部室は静まり返っている。まあいいや、と持ち込んだかばんをひっ掴むと、電気も点けず椅子に座り込んだ。
「うっわー、汗だらけ」
ぴったりしたユニフォームもスパッツも、あんまり水を吸ってくれない。
その上足はスケートの中。蒸れることこの上ない。
鈴音はよいせ、と脚を上げ、とりあえずスケートを脱いでしまおうと膝を抱えた。多少みっともないカッコだけど、誰も見てないし。
と。
「──あんだ? 糞チアじゃねえか」
ふいに手元が真っ暗になったかと思うと、背後から声がした。
慌てて振り仰ぐ。するとすぐ後ろのカウンター越しに、ぬっと見下ろす男の影。
「やっ……や─────っ!!」
反射的に傍らのポンポンを投げつける。影はひょいとかわしたかと思うと、あっさりキャッチして声を上げた。
「なにが『やー』だ。でかい声で叫ぶんじゃねェ!」
「よよよ妖一兄………?」
声が震える。ぱちくりと見上げると、薄暗い部屋のシルエットは確かに……
「……びっくりした。そっちこそ、いきなり声かけないで!」
「いきなりじゃなくてどうかけりゃいいっつうんだ、阿呆」
「そっとよ」
「ふん」
呆れ顔で目を細めると、蛭魔は悠々とカウンターを乗り越え、鈴音の横を抜けてテーブルへ向かった。
どかん、とPCを開く。青白いディスプレイの光。
「ぐだぐだ言ってねェでとっとと帰れ。馬鹿兄貴の方は半分意識飛ばしながら帰ったぜ」
物凄いスピードでキーを打ちながら、時折舌打ちして脚を組む。凶悪な目線が文字を追って動いていた。
鈴音は唇を尖らせた。
「着替えるくらい、いいでしよ? 汗かいたんだもん」
「おお、好きにしな」
「むこう向いてて」
「……あん?」
蛭魔の手が止まった。
ゆっくり顔を上げ、しげしげと鈴音へ視線を向ける。
「け。見ねーよ、そんなモン」
さも面倒そうな言い草に、鈴音の顔が固まった。
「そ、そんなモンはないんじゃない!? これでも日々のトレーニングで、スタイルを保ってるのにー!」
「スタイル以前に見所がねえんだよ。そういう台詞にはあと三年足りねェな」
「うっ」
「だいたい恥らうような格好か? 脚おっ広げて座りやがって」
さも小馬鹿にしたように、蛭魔の薄笑いが続く。そういえばと見下ろすと、先刻スケートを脱ぎかけたまま、片足だけが椅子に上がっていた。
まくれたスカート、下はスパッツ。部屋は暗いし、別に何が見える訳じゃないけれど急に恥ずかしさがこみ上げる。
「ス、スケート脱ぐところだったの!」
慌てて脚を下ろし、留め金を外す。ぱちんぱちんと開いていくと、足先にひやっと外気があたった。
「色気ねェ話だな」
けっけっと又馬鹿にした笑いが聞こえ、鈴音の頬が熱くなる。
続いてなんだか腹が立ってくる。そりゃあ、多少ぺったんこなのは認めるし──お色気よりも元気さで攻めるタイプだって自分で思ってるから、変な露出とかしないけど。
それにしたって、この言い方はないんじゃない?
「……妖一兄のばか」
「ああ?」
こそっと呟いた台詞を聞き咎め、蛭魔が顔をしかめた。
「何か言ったか」
「よー兄のばか、って言ったの。なによ、こーんなぴちぴちしたコが目の前で着替えようっていうのにその態度!
そーいうの、デリカシーが無いっていうんだから!」
「……ほお」
腹立ち紛れにまくしたてると、蛭魔はすっと冷たい目を向け、おもむろに椅子の下からリボルバーを取り出した。
「言うじゃねえか、ちび蝙蝠?」
がしん、とロックを外して。
「そこまで言うなら一丁、見せてもらおうか。その自信の程をよ」
「……………ど、どーするのよ」
ぴたりと照準が胸の中心に合っている。撃たない──とは言い切れないのが、この男のおそろしい所だ。
思わず身構えると、蛭魔は暗がりで氷点下の笑みを浮かべた。
追い立てられ、カウンターの上に上がる。あまり幅もないそこは、ぺたりと座るとぎりぎり脚が収まる程度だ。
気を抜くと落ちそう──鈴音が何度か座り直し、バランスを確かめていると、ぱちんと明かりが点いた。
ぼんやりした間接照明がひとつ。ゆるく照らされる裸足の足元。
「………」
なんとなく身の置き所に困って、膝を抱える。
背中で小さな蝙蝠の羽が、不安げにパタパタ揺れた。
「……こんなモンか」
明かりの位置を調節していた蛭魔が戻ってくる。そしてどさりと椅子に腰を降ろすとテーブルに足を放り上げた。
「腹は決まったか、糞チア」
「だから、何するの? ストリップしろとか言うんじゃないよね……」
「ンなぬるいショーは見たくねえな」
あいかわらず横柄な口調で銃を出し、薬莢をばらばら落とす。一発残し、弾倉を回した。
「ほれ、オナニーしな」
「へ」
ぴたりと鈴音の動きが止まった。
今──何て言った?
「……ええっと、妖一兄?」
「オナニー。知らねェのか」
「し、知ってる、けど!」
叫んでしまってから、鈴音は慌てて口を塞いだ。こんな主張するようなコトじゃない!
しかし男は無表情に眉を上げただけで、笑いもせず銃を向けた。
ぴったりと胸の真ん中──その引き金が、動く!
「や!」

がちん。

あっさり間抜けな音がして……それだけだった。
思わずカウンターの上で身体を縮めた鈴音に、にやりと蛭魔が笑う。
「バーカ。空だ」
「び、びっくりさせないでー! マジに来るかと思った……!」
「──一発」
ふいに低い声。
「一発だけ入れてある。何発目で当たるかは、俺も分からねえ。
早く終わらせりゃ──当たらねーで済むかもな」
「は、ふ」
小さく漏らした息が、やけに大きく響く。
鈴音はぎくっと唇を噛んで息を殺した。それでも、ともすると力が抜けて、鼻にかかったような声が出てしまう。
ぼうっと薄明かりの向こうでは、蛭魔の打つタイプ音。
自分で強制したくせに、ずっとPCに向かったままで、こちらを見もしない──なんだと思ってるんだろ?
「んっく」
意識が逸れた拍子、スパッツに滑らせた指が爪をたて、びくんと体が跳ねた。
息が詰まる。
スポーツタイプのつるつるしたスパッツ。水分をあんまり通さない筈なのに、中指の先にはうっすら湿り気を感じるようで、自分が怖くなった。
冷たいカウンターの上、暗がりに向かって両足を開いていると、ひんやり空気が肌を撫でてゆく。露出のあるチア姿は、冷房の風に、弱い。
「手、止まってンぞ」

がちん!

撃鉄の音。……はずれ、だ。
見ていないくせに、時折手を止めたかと思うと、引き金を引く。そのたびに心臓がひとつ踊る。
「や、妖一兄!」
「がなるな……いい加減脱いじまえ。濡れてんだろ」
何かを見透かすように冷たい目が、じろりと脚の間に注がれる。
鈴音はむっと唇を結び、ぶんぶんとかぶりを振った。乱れた髪が、汗ばんだ頬にぺたりと貼り付いた。
すうっと上がる銃口。
「脱げよ」
……頑固な上目づかいのまま、渋々鈴音は頷いた。
──脅迫だってば!
そう叫びたいのを我慢して、お尻を少し上げる。
プリーツスカートをずらしながら、スパッツに手をかけ、よいしょとずり下ろした。
伸縮性の高い布地はひっかかりつつも、素直に両足から抜けた。
「それもな」
ぴっと最後の一枚を指さす蛭魔。
「や!」
「邪魔だっつーの」
腹ァ据えたんだろ、と鋭く言われ、鈴音はぐっと奥歯を噛みしめた。
そしてふうっと息を吐くと、のろのろと下着にも手をかけ──肌からひきはがす。つうっと透明な糸が引いて、どきりとする。
じかにお尻に触れる堅いカウンターの感触に、一気に現実感が襲ってきた。
「脱いだ、よ」
「OK。続けろ」
事務的に銃を下ろし、再びディスプレイに集中する男。カカカ、とキーの音が響きはじめ、部室は奇妙な構図になった。
見たいの、見たくないの、どっち?
むうっと声を上げそうになり、急いでのみこむ鈴音。
そうだ、早く終わらせちゃえば──こんなおかしな空間から逃れられる。
霞んだ頭の隅っこで、もう一人の自分が叫んでる。その声に引っ張られるようにして、鈴音はふらふらと脚の間に指を伸ばした。
くちゅ。
「あン」
触れた瞬間、指先がぬるぬると沈んで、鈴音は声を上げた。
冷房に冷えた指には驚くほど熱く感じる。ついさっきまで動き回っていたせいか、体温はあんまり下がっていないのかもしれない。
正直、自分ではそんなに触らない。
まったく無いワケじゃないけど──運動量が多くて毎日疲れるのと、あの馬鹿兄貴がすぐ隣の部屋にいるせいで、とてもじゃないけど声なんか出せない。
当たり前だけど、エッチした事もないし……
「……お。充分濡れてんじゃねェか。小娘が」
ちらりと視線を向け、悪気満載の声で蛭魔が言う。
「指は入れねーでいいが、しっかり動かせよ。イケねぇぞ」
「ば、か、妖一兄……んっ!」
視線を避けようと脚を閉じたはずみ、親指が敏感な突起を擦って電気が走った。
「やーっ、んんんっ!」
びくびくっと波打つ細い背中。
一撃が去ると、強い刺激を受けたところはじんじん疼き出す。熟れない指が無意識に辿るようにして、ゆるゆると突起をまさぐり始める。
「あン……ふあ、あ、……あん」
腰の辺りが痺れてきた。
中指と人差し指で、挟みつけながらそうっと擦り上げると、痛いほど鋭い快感。
目を閉じて少しずつ没頭していく鈴音に、蛭魔が感心したような声を上げた。
「ほお、やりゃできるじゃねえか」
まったくのガキだと思っていても、キッカケさえあれば蕾が開くように女の顔が現れ始める──ロリ趣味なんぞは糞くらえだが、こんだけ成長できるようならまあまあだ。
「や、よー兄、見ちゃヤダぁ……」
頬杖を突き鋭い視線を向け始めた蛭魔に、鈴音が頬を染めて顔を伏せた。
こーゆーの、視姦っていうんじゃないの……?
触られていない筈の腿の辺りや、あらわになった鎖骨のへんまでがチリチリしてくる。
視線が──痛い……
円を描くように刺激していた突起が、ぴんと張り詰めてさらに敏感になっていく。
とろとろと滴った液が、指先から溢れてカウンターに広がっているのが分かった。
「あ、や、あ、んァ」
スカートはすっかりずり上がって、下半身を隠すものは何も無い。つうっとユニフォームから伝う汗。

がちん!

びくん!
「おら、胸がお留守だぜ」
「ふぇ……ムネ……?」
ハズレとはいえ引き金を引かれると、やっぱり怖い。荒い息をつきながら蛭魔を見返すと、男は一層冷たい顔で言い放った。
「なんも無ェだろうが、一応は性感帯だ。触っとけよ」
なんも無くない! 言い返したかったけれど言葉が出なかった。
頭が薄ピンクの靄に包まれたようにぼんやりして、性感以外の感覚が遠くなる。言われるままに空いた手を、ユニフォームの中へ滑らせた。
無くはない──でもささやかな膨らみ。
フィットするチア姿の時はノーブラで平気な程、主張のない胸だ。一緒に着替えるまも姐の形よい胸が、今になって羨ましくなってしまう。
「よ、よー兄……」
「何で」
「……オッパイ、ちっちゃくてゴメンねぇ……」
見る甲斐ないよね、と朦朧と呟くと、蛭魔は片眉だけちらりと上げた。
何か言いたそうな顔をしたけれど、もう目を向ける余裕もなく鈴音は、濃いピンクの渦の中へ迷い込んでいく。
後から後からとめどない、熱い液に溺れるように指先を動かしながら、もう片方はこれたまたささやかな乳首をきゅっとつまみ上げる。小さいながらも固く主張する突起は、
くるくる撫でるごとにツンと刺すような刺激を走らせてくれた。
「んん、んっ……やー、止まんない……っ」

がちん!

「……残り二発だ」
というコトは──もう確率、二分の一──
「……や───っ!」
ぞくぞくぞく、と背筋を電流が駆け抜けていった。霞む意識の中でも、銃口の光だけはくっきりと目に入ってくる。
きゅうっ、と下腹の奥が引き絞られる感覚がしたかと思うと、次の瞬間。快感が一層鋭く小さな姿態へ襲いかかった。
つたない指の動きが、振り切るように激しさを増す。
「やァ! ダメ、ダメ……撃っちゃヤダ、よーにい……!」
無意識にのけ反る。ショートのえり足から伝う汗も、ぬるつくカウンターの感触も、サドっぽい蛭魔の視線も恥ずかしい態勢も、みんな今の身体には刺激になってしまう─

「ダ……メぇ………うあ、ふあ、ああ、っく」

──ガチン!

瞬間。

「──やぁぁぁぁぁぁっ……!!」

ひと声上げ、鈴音はしなやかに背を反らせた。
そのままびくびく、と断続的に全身を震わせ──くたりと力尽きる。
「……ふ……は、……はぁ」
意識が遠くなる。このままだと気絶して、落っこちちゃうかも……

びしっ!!

小さな痛みとともに、胸元に何かが当たった。
「………?」
息をつかせて、閉じかけた目で見上げると──すぐ目の前には蛭魔の姿。
男はやっぱり馬鹿にしたような、それでも僅かに熱を持った眼で見下ろすと、どこまでも凶悪な笑みを浮かべた。
「ま、よくできた方か──鈴音」
……あ、なまえ
「ちなみにコレはモデルガンだ。当たってもせいぜいBB弾、死にゃしねェ」
にやり。
………悪党………っ
くるくる世界が回る。目の端に悪魔の微笑みを捉えたまま、鈴音はふうっと意識の底へ沈んでいった。

ぱち。
唐突に意識が醒めて、鈴音はぼんやり瞬きを繰り返した。
「ん………」
部屋の中はやはり薄暗い。なんだか体中がぎしぎしと痛くて、キモチ悪い……
「………はっ!!」
がぱり、と起き上がる。
どうやらテーブルの上に寝かされていたらしい。慌てて見回すと、薄闇の向こうで男がこちらを振り向いた。
「あんだ、目ェ覚めたんか」
不機嫌そうな顔が、何事も無かったかのようにじろりと視線を向けてくる。
鈴音は一瞬にして一部始終を思い出し、思わず両手を握りしめて詰め寄った。
「よ、よ、よ、よー兄ぃ───っっ!!よくもよくも騙したわね───ど、どーしてくれるのよっ!!」
「何をだ?」
「へ?」
平然と受け流す蛭魔に、鈴音はきょとんと止まった。
「何を、って……さんざんアタシに恥ずかしいコトさせて、そいで……」
「あ──、何言ってんだ。ありゃあそもそもオマエが『どーするのか』と訊いたんだぜ?」
「じゅ、銃で脅してたし」
「『本物』だとは一言も言ってねェ」
………!!
「……あ、悪党……っ!!」
「け。記録撮ってねェだけ親切と思いやがれ。
まァ、そこそこいい出来だったようだがな──ツルペタの割にはな」
「えッ」
言葉の後半、投げやりな感じではあるけれど付け足された台詞。鈴音は顔を上げると、大きな目を丸くして蛭魔を見据えた。
「ほ、ほんと!?」
何だかいいように騙されている気がしたけれど──この人がちょっとでも褒めてくれるなんて、月が落ちるくらいの奇跡だし!
蛭魔はあっさり頷いた。
「まァな。俺の満足には遠く及ばねーが、修練次第だ。コレ持ってけ」
言って何やらゴソゴソ取り出すと、鈴音に放り投げる。
「え? え?」
次々飛んでくるモノを慌てて受け止め、暗がりで目をこらして見る。
銀色のパック──コンドーム。
「よ、よー兄?」
「要るんだよ。持っとけ」
「だ、だって……」
コレが、要るって、コトは……そこまでいたすつもりがある、と。そーゆーコト?
ばっと顔を赤くし、鈴音は思わず腕の中のモノを取り落としそうになった。
……なんだろう? ヤじゃないのかな、アタシ。
さんざん恥ずかしい事させられて──全部見られて、それでも?
この悪魔みたいなヒトに。
「………」
顔を上げられないまま、鈴音はぼんやり腕一杯のモノを見渡し──絶句した。
「ひッ」
避妊具以外の様々な道具。ローター、怪しげなクスリ、妊娠検査薬、手錠、なんかトゲトゲした輪っか、その他エトセトラエトセトラ。
「基本のセットって奴だ。しっかり使いこなせるようにしとけよ。体温も朝イチで測れ。でねーと色々面倒だからな」
心なしか嬉々として、より邪悪な顔で蛭魔が言う。
鈴音はその『基本セット』を抱えたまま、ぷるぷると震えていた。
こ、このヒトは………もう、付き合いきれない……!

「……や─────っっ!!
よー兄の、ばか─────っっっ!!」

ガァン!!

力の限り抱えたモノを投げつける。
そして部室を走り出ると、思いっきり扉を叩きつけ、とっぷり暮れた宵闇の向こうへ駆け出していった。
「信じらンない!!」
夏の夜。生ぬるい風がまとわりつくその感覚に、身体が震える。
チア衣装も着替えてない。ちりちりするうなじと、痺れるような下腹の甘い疼きが、眠れない日々を暗示するように──

──ずっとずっと、残っていた。

 



 
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