「あっ・・・やだ!」 どうしてこんなことになっちゃったのかしら。 「だめだってば!こんなところで」 分かってるなら他所に行ってよ! 「もう!・・ほんとにえっちなんだからぁ」 嫌がるのか喜ぶのかはっきりしたら? 姉崎まもりは焦っていた。例えるならば、部室に忘れたAVを顧問に見つかった男子中学生くらい焦っていた。 どうしてこんなことになったのか。彼女はいつものように、マネージャーの仕事として対戦校の分析をしていただけなのに。 ヒル魔の向かいに座り、灯りを落とした部室でビデオを眺めていた。音声を小さくして議論を交わしてはメモをとり、何の支障もなく作業は進んでいたのに。 確かに、こんな夜遅くまで学校に残っていたのは責められても仕方ないだろう。だからちょっとは警備員の目を欺けたらと思い、部室の電気はつけないでおいたのだ。 激しい部活で帰るのが遅くなってしまったための、苦肉の策だった。 それなのに。 「誰もいないね」 なんて勝手な勘違い。 こともあろうに、部室の裏でどこかのカップルが『おっぱじめて』しまったのだ。 「脅迫ネタゲ〜ット」 デビルイヤーでいち早く気付いたヒル魔は、小さな声で楽しそうに笑った。ビデオの電源を落とし、ロッカーに向かう。 まもりも何も知らない子供ではない。静まり返った部室にやけに大きく聞こえたアノ声に、何が起きているのかを瞬時に悟った。 体が硬直し、顔面は朱に染まっている。部室に漂う奇妙な空気を、紛らわすように声をあげる。もちろん、裏の人間に気付かれないように。 「何する気よ」 音も無くロッカーを漁るヒル魔に尋ねる。 「ん?録音」 四次元ポケットのようなそこから黒く怪しげな機械を探し出すと、彼は事も無げにそう答えた。 「なっ・・・何考えてるのよ!変態!」 「あーバカうっせえな。外に聞こえんだろ、外に」 思わず高くなってしまった声に、ヒル魔はうんざりしたように耳を塞ぐ。あっと口を閉じるまもりを尻目に、彼はゴソゴソと機械のスイッチを入れた。 壁際にそれを設置しているのを見かね、まもりが静かに駆け寄る。 「やめなさいよ。悪趣味じゃない」 「こういうのが後々使えんだよ。良いからもう黙っとけ。外の奴らに気付かれんぞ」 彼女の声もどこ吹く風。ヒル魔は面倒くさそうに床に座り込む。 実力行使で機械を奪えるとも思えなくて、まもりは仕方なく人一人分の幅を空けて隣に並んだ。 別に外の人間に遠慮する義理も無いのだが、部室に人がいると気付かれてもこっちが恥ずかしい。もちろんここからは出られないし、聞かぬふりをしようにも隣の男が興味津々で外を窺っていて、それも無理そうだった。 所在無いとはこのことだ。 「あんっ・・スカート汚れちゃう」 「じゃあ脱ぐ?」 「ばかあ・・抱っこしてよ」 どうやら順調に外のカップルはコトを進めている。録音の支障になるからなのか、先ほどからヒル魔は一言もしゃべらず、まもりも話しかけることが出来ずに俯いていた。 意識では拒否しても、耳は自然と、聞こえてくる音声に集中してしまう。 「パンツぐちょぐちょ。外が好き?」 「変なこと言わないで、もっと・・ああっ!」 声を隠そうともしていないのだろう。遠慮の無い声の応酬が、まもりの顔を熱くしていく。 こんな異常な状況を、ヒル魔はどう思っているのだろうか。彼女は窺うようにちらりと視線を向けるが、録音機に向けられた彼の表情は知れない。 熱いのは顔だけじゃない。心臓から広がるように子宮を震わせ、熱い血液が全身に巡る。 欲情していく自分に気付いて、まもりは抱えた両膝に顔を埋めた。 「んっ・・ふうっ・・あっあっ・・」 断続的に聞こえる喘ぎ。腰を抱えられ、突き上げられているのだろうか。はっきりと想像してしまい、ぎゅっと目を瞑る。 頭を占める映像の、主役の顔はまもりとヒル魔だ。自分の如何わしい想像に、消えろと命令するも効果はない。 秋大会が始まってから頻度が減ったとは言え、ヒル魔との性行為は体に染み付いている。 与えられるはずの快感まで思い出し、彼女は唇を噛んだ。 こんなところで行為に及ぶなど、どうかしている。悪魔の住処に近付くなんて、この高校の生徒なら間違えてもしないだろう。浮かれて忍び込んだ他校の生徒?馬鹿なことを。 そう毒づいたところで、欲情した体が収まる訳も無い。 「いい・・もっとっ!」 外の二人は随分と盛り上がっているらしい。積極的な女性である。まもりとは正反対の。 もじもじ脚を動かすと、キュッと音を立て、まもりの指定靴が床をこする。毎日掃除は欠かさないけれど、スカートは汚れてしまっただろう。 「・・・ヒル魔君」 「何だ?糞マネ」 膝に顔を埋めたまま、隣に座る男を呼ぶ。 ヒル魔はまるで何事も無いかのように、振り向きもせずに返事した。もしかしたらこの喘ぎ声が聞こえているのは自分だけなのかもしれないと、まもりが疑うほどに。 けれども、それを確認するだけの余裕は無かった。 二人の間に空いた、空間が邪魔だ。 「こっち向いて」 顔を上げてヒル魔を見つめる。ゆっくりと振り向く彼とは対称的に、勢い良く飛びつくと、伸ばされた長い脚にまたがりキスをした。 見た目よりは柔らかいことは、もはや意外とも感じなくなった。それほどに触り慣れた美しい金髪に指を絡める。 目を瞑って思うままに口の中を味わう。傍若無人なはずの彼の舌が今は大人しく、試されているようで腹立たしいのに欲望は止まらない。 からかうような視線を目蓋の向こうに感じながら、まもりはゆっくりと顔を離した。 てらてらと唾液で光る唇をクッと吊り上げ、悪魔が笑う。 「・・・随分と積極的なことで」 「嬉しいでしょ。こんな彼女を持って」 そう言って、彼の口元を舐める。 「上等だ」 満足そうに歪められた唇が、今度は意志を持ってまもりのそれを塞いだ。 なんだ。ヒル魔君だってやっぱり興奮してたんじゃない。 脳を溶かすようなキスを交わしながら、どこか冷めた頭でまもりはそう考えた。 彼から仕掛けられたキスは、彼女が仕掛けたそれよりも熱い。 膝立ちになっていた脚を引かれ、ヒル魔の上に座らされる。その拍子に彼の硬くなった股間が布越しに当たり、下腹部がジュンと熱くなった。 「『パンツぐちょぐちょ』」 ヒル魔の指が下着へ伸ばされる。 「ばかっ、ふざけないでよ!」 小さな声で文句を言うが、自由に声をあげられないこの状況を楽しむかのように、彼の悪戯は止まない。 濡れた下着の隙間から忍び込んだ長い指は、慣れたその場所で遊ぶ。水音を立てながら膣内に潜り込み、すぐに飛び出しては突起を弾く。 上半身を支える腕は、二人の隙間を無くすようにぎゅっと絡みついた。 かすかな指の動き一つ一つに律儀に跳ねる体に、ヒル魔は喉を鳴らす。自分が開発した体の仕上がりは素晴らしい。 「あああああっ!」 厚い壁の向こうから、一際大きな喘ぎ声が聞こえた。朦朧とし始めたまもりの頭にもそれは大きく響き、驚いた体がビクリと震える。 「・・・でけー声。テメエも聞かせてやれば?」 「・・ほんっと、最悪のヘンタ・・んっ!」 変態。そう言って睨みつけようとした彼女は、赤い顔でヒル魔にしがみ付く。 彼の指技がそうさせたのだ。 「ぅあっ・・んっ!」 二本に増やした指で体内を掻き混ぜ、折り曲げては突く。 下着を脱がせて更に脚を大きく広げさせると、膣に入れた指でまもりの体を引き上げるようにして振った。 「やああっ!」 強すぎる刺激で、声を抑えるのが辛い。 外にいる見知らぬ人間の喘ぎ声が頭に響き、それさえも自分の声であるかのように感じてしまう。 耳元で悲鳴をあげる彼女に、ヒル魔はかすかに荒くなった呼吸で囁いた。 「言っとくが、俺も余裕はねえからな」 告げるなりまもりを腿に下ろし、ズボンの前を開ける。下着から硬くなりきった性器を取り出し、避妊具を装着した。 彼女の腰を掴んで持ち上げる。 「・・声出すんじゃねえぞ」 頬を寄せ、首筋にキスをする。 性器の上に座らせるようにして一気に挿入した。 「んっ・・ぐっ」 「・・いっ・・テ」 まもりの犬歯が、ヒル魔の首にうっ血を作る。声を堪えるため、彼の首筋に噛み付いたのだ。 悪戯の仕返しの意味も込められているのだろう。ヒル魔は痛みに眉をしかめる。悪魔に噛み付く天使などと、陳腐な言葉を思い浮かべた。 快感に、まもりはただ彼の肩口に顔を埋める。挿入に伴う痛みなんてものは、とうの昔に置いてきてしまった。 あるのはただ、思考を白くするような痺れ。 「ふぅっ・・」 外の二人の声は、既に聞こえなくなっていた。コトを終えたのか、ヒル魔たちに気付いて逃げたのか、それは分からないが。 そんなことにも気付かずに声を我慢するまもりは、いつもよりも激しく乱れている。ヒル魔は彼女の肩を押さえつけると、小さく笑い突き上げた。 「・・声出すと、聞こえちまうぞ」 「んんっ」 ブレザーが、くぐもった声で湿る。 からかいに対して返されたきつい締め付けに、ヒル魔は射精をこらえ固く目を瞑った。 こういうシチュエーションだと感度が上がるんだな。おもしれえ。 決して口には出せないことを考え、ヒル魔はさらに揺すり上げる。 煽って見せたところで彼にも余裕は無い。一刻も早くイかせ、一刻も早くイきたかった。 「はあっ・・」 息を吐き、まもりの首筋に先ほどのお返しとばかりにキバを立てる。 「あっう!」 うっ血の跡に舌を這わせ、にやりと笑った。 「インランですネ。まもりサン・・」 汗の浮いた額に前髪が張り付く。追い上げるように囁き、片方の手で捲くりあがるまもりの膣口をなぞった。 「んあっ!んんっ!」 「イテッ・・・!」 突起まで責められて身を強張らせたまもりが、絶頂の声を堪えるために再びヒル魔に噛み付く。 鋭い痛みと小刻みに締め付けられる快感に脳を焼かれ、彼も彼女の中で精液を吐き出した。 「はあっ・・・はっ・・・」 激しく息を吐き、萎えた性器を引きずり出す。グタリと崩れる、まもりの体。 糸を引く愛液が、制服のズボンに白いラインを残した。 『カチッ・・・グルルルゥゥウウ!』 人のいなくなった部室で、残量の無くなったカセットテープが巻き戻しを始めた。 120分の録音テープは、翌2時にやってきた、栗田小結コンビが聴くことになる。 |